RENGE-KUN'S UNHAPPY SUMMER VACATION

□蝸牛角上の争い
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俺は今、猛烈に腹が立っている。



それは目の前に立ちはだかる、戸浪班班長の戸浪文吾さんも同じようだ。



いつもはヘラヘラとふざけた笑みを浮かべるその顔に、いくつかの青筋を立てている。



(うわぁ、怖いなぁ。)



その般若のような表情に思わず怯むけれど、俺だって文さんの言い分には腹に据えかねている。



俺達から少し離れた場所にいる菰方さんは、ほとほと呆れた様子で溜め息を吐いた。



「文さんもアキも落ち着きなさい。こんな事で喧嘩なんて、本当下らない。」



「「"下らない"!?菰方(さん)に何が分かる!」」



「……アンタ等、仲良いじゃねぇか。」



最後に聞こえた言葉は無視して、文さんと睨み合う。



「だからっ、どうして文さんは分かってくれないんですか!?」



「影達だって、どうして分からねぇ!」



「"ガンダムW"が1番です!」



「違ぇ、"ガンダム"は初期が1番だ!」



吼えた俺達に今度こそ呆れ果てた菰方さんは、遂にその場から立ち去った。



俺達はよく、こんな風に「ガンダム」シリーズの話題で衝突する。



すると、文さんに用があるらしい戸浪班の秋乃ちゃんと歩ちゃんがやって来た。



「おい、班長…って。またやってんのかよアンタ等、ほんと仲良いな。」



菰方さんと同じ事を言われ、今度こそその言葉が聞こえた事を認めざるを得なかった。



「一体菰方や古賀は、どうしたら俺達が仲良さそうに見えるの?」



「菰方さんや秋乃だけではありません、私も常々そう思っていました。」



「あ、歩ちゃんまで!?」



流石に分析力に富んだ歩ちゃんに言われると、「自分達が鈍いだけなのか?」と不安になってしまう。



「はい。それにお2人は、何も"ガンダム"シリーズの話題だけで対立している訳ではありませんよね?」



確かに俺と文さんは、対立する内容のほとんどが「ガンダム」の話題で占めているだけであって、他の話題でも何かと対立する。



「一昨年はランチのメニュー、昨日はどこの居酒屋が1番良いか。そして今はどちらの思う"ガンダム"シリーズが良いか…。お2人はお互い無意識の内に、情報の共有をなさっているだけです。……まぁ、その方法が?何故か喧嘩腰である訳ですが。」



言われてみれば文さんと口論した後は、食べたいと思ったランチメニューが増えていたり行ってみたい居酒屋が増えていた。



いつの間にか俯けていた顔を少し上げれば、目の前にいた文さんも俺と同じ事を考えていたのか似たような表情をしていた。



「あの、文さん。その…、すみませんでした…。」



「あいや、その…俺も悪かった…。」



俺達は照れ笑いながらも、互いの右手を差し出して和解の握手をした。









例え下らないと分かっている喧嘩をしたとしても。



実は互いと良好な関係を築く為の、無意識の配慮なのかも知れない。



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