短くどうにか
□キャラメルマジック
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ころん、と口の中で転がり甘さで口内はおろか脳天までもを侵食しそうなそれは、初めての感覚だった。
去年だったか、まだフィフスの言いなりのサッカーをただグダグダやっていたときだ。
練習のあと、後輩が食べているそれをひとつもらった。
いや、もらったと言うよりは押し付けられた。
「先輩もどうですか?」
なんて口では言うのに、ちゃっかり俺の手のひらにはひとつの粒が握らされていた。
俺が愛想のない『ありがとう』を告げると、そいつは『はい』なんて満面の笑みで俺に笑いかけた。
それからだ、あいつのことが気になりだしたのは。
同じポジションだったけど、今までは特に意識をしていなかった。
でも今は違う。チームメイトとしても一個人としても意識をするようになった。
「お疲れ」
「あ、先輩!」
俺が練習後に話しかければ、またそいつはキラキラした目で俺を見るのだ。
「先輩って…。俺の名前分かるか?」
「えっと…たしか…」
うーん、と唸りだした後輩に笑みがこぼれる。
俺だって最近、新キャプテンである神童に聞いて知ったんだ。
こいつが俺の名前を知ってるなんて期待してない。
「うーん…」
「南沢。」
「えっ」
驚いた顔で俺を見るので、俺の名前だよ、と呆れながら答えてやる。
するとコイツは、南沢、南沢…と俺の名前を反芻し始めた。
「せめて“さん”くらいつけろ」
「あ、はい。すみません。南沢さん…南沢さん…。」
俺の名前を必死に覚えるように呟く後輩が急に愛おしく感じた。
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