□恋の始まり
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それは
甘酸っぱい柑橘系の香りだった。



何の香?
ふと視線をやるとすぐ近くを
走り去る名前の姿が見えた。
肩までの髪が規則的に揺れて
綺麗だった。
俺の鼻をかすめる君の香


「名前って何の香水付けとるん?」

『へ?』


今までほとんど話した事も
なかったからか、
名前は間抜けな声を発して
俺の顔をポカンと見つめよった。
その表情が豆鉄砲くらった鳩みたいで
笑えてしまう。


「いやな?さっき名前が走り抜けてった時に甘い香がしたんやけど、何の香水付けとんのかなー、思ってん」

『え?』

「俺な、香水は嫌いなはずなんやけど、名前の香はええな』

『…でもあたし香水なんか付けてないよ?』

「…え?」

名前の一言に今度は俺が
豆鉄砲をくらってしまった

(あ、今笑った。)

俺の顔を見て笑う名前。
…凄く、可愛い。


『アハハッ……本当に香水なんか付けてないんだって』

「じゃあ、何の香いやったんやろ…」

『さぁ?私じゃないんじゃないかな?』


あの時周りに名前しかおらんかったし
あいつが走り抜けて
匂いがしたから絶対名前やと
思うんやけど…。
せやけど、香水じゃないん
やったら違うんかなぁ…。


…あ。







「……」

『…え…、ちょっと白石くん近い…!』

「あ、分かったわ」

『……へ?』

ほんまに違うんかなぁって思って、
近くに顔を近付けて鼻を利かせてみると
名前はびっくりしたのか顔を紅くして慌てた。
また、ふわっと甘い香りが掠めて、
それと同時にトクンと心臓が脈打った。

(なんや、苦しい…?)


「匂い。シャンプーのやったんやな」

『シャンプー?』

「めっちゃ良い匂いしとるで、髪」


染まっていたはずの頬が更に紅く染まって、まるで林檎の様になる。


(可愛えぇな。)


『…あ、えっと、最近シャンプー変えたからかな…、甘いフルーティーな香り…とか言うやつ』

「それやそれ、甘い匂い」

『…でも、それがどうしたの…?』

「ん、名前って良い香りやったんやなぁって思て。」


恥ずかしがって慌てる名前を見て、自然と上がる口角と自分の甘い声が
他人事の様に思えた。
甘いのはシャンプーの香りだけじなかった。もっと甘ったるい…なんだろう……あ、この甘ったるい香…1つ知ってる。
もしかしたらこれは恋の香かもしれない。










俺の好きなタイプ?
…そうやな、シャンプーの香りがする子。それもとびきり甘い柑橘系の香。








だってそれは



俺の初恋の香りだから


END.



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