わんだふるでいず

□またね
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『謙也あのね、私明後日東京の学校に転校するんだ』

「っ…………今…なんて?」


私の急な発表に
先ほどまで笑っていたはずの謙也の顔からは笑顔がすっと消えて
真剣な顔でこちらを見ていた。

『お父さんの転勤……でね、明後日には行かなきゃ行けなくなっちゃったの…。』
「…………」
『………』


謙也は話を聞くと黙ってしまった。
私もどうしたら良いかわからず黙ったまま謙也を見ていた。


しばらくして謙也の口がゆっくりと開いた

「……それは、絶対行かなアカンの?名前だけこっちに残るっちゅーんはダメなんか?」

『うん…。言ってみたんだけど一人はダメだ…って。』

「一人がダメなら俺ん家に住めばええやん!な?」



と必死に言ってくれている謙也。
こんなに思ってくれてるんだって思うと、ずっと大阪に居たいって思った
…………だけど



『それはダメだよ…謙也にも迷惑かかっちゃう。……それにさ、もう転校先の手続きすんじゃったんだ…。』

「そ……か。」

『うん………。』

「なら…しゃーないな。」

『ん…』



寂しくてしょぼんとしてると、
謙也はいつものように
明るくニッと笑いかけてくれた


「行ってきぃ!そんでちゃんと戻って来いや!」

『っ…うんっ!!』

「…離れてても俺は名前が好きやで」

『私もっ…謙也が大好きっ』

夕日に照らされて
伸びた二つの影は
ゆっくりと重なった




***************


『今日でこの大阪ともお別れかぁ…』

長かったようであっとゆう間
だったなぁ…
謙也に始めて会ったのが昨日の事のように思い出される。

『謙也………。』

「名前ー!」

『っ謙也!っ来てくれたんだっ』


急いで謙也の元に駆け寄ると
おでこに軽くデコピンされた。


「アホ!当たり前やろ!彼女遠くに行くっちゅーのに見送りに来ない彼氏が何処におるっちゅうねん!!」

『あははっ…………ホントに謙也は優しいね。』

「そっそか?」

『うん…そんな優しい所が大好き』


私が言うと謙也は「おっ…
『浮気、しないでよね?』

これからしばらく謙也に会えないと思うと誰かにとられちゃうんじゃないか、って心配になって言ったら、謙也は目を見開いてから眉間に皺を寄せた。


「アホかっ!!誰が浮気するんや!!俺は名前一筋やっちゅーねん!……名前の方こそ浮気すんなや」

その言葉が嬉しくて勢いよく抱き着くと少し慌てながらもちゃんと受け止めてくれた
『大丈夫だよ。私は謙也一筋だもんっ』

「っ…可愛い事ゆうてくれるなぁ〜!」

『ふふっ』

〜〜♪


『あ…』

「来て…しもたな。」
『うん。』


駅のホームに電車の到着を知らせる音楽が鳴り響き、急に寂しさがこみあげて眉を寄せた。

「そない顔しとったら可愛い顔がだいなしやで?」

『うぅっ…』

「泣くなや…俺まで、泣きたなる」


私が泣いてるのを見てなのか、謙也の目にもうっすらと涙が見えていた。

『謙也ぁ』

「ん?」

『行きたくないよぉ』

「あほ、俺かて行かしたないわ」


"行きたくない"と私が言うと、抱きしめる腕により一層力がかかりちょっぴり苦しかった……けど今は、何故かそれが心地良かった。

『謙也ぁ……好き…大好き。』

「………名前…大好きや」

『…!!?』

いつもは恥ずかしがって人が沢山いる所ではキスをしない。……そんな謙也がいきなりキスをしてきた。それも深く深く、熱くて溶けちゃいそうなキス。

「……んっ…」

『…っ……はぁっ……』

唇が離れて目を開くと、謙也が見えて安心した……けど同時に私が乗る東京行きの新幹線も見えた。

『電車……きちゃっ、た。』

「っ……気ぃつけていってきや」

『……ん。』

電車に乗り込み振り返ってみた。
手を伸ばせば届く距離に謙也は居るけどなぜか今は凄くそれが遠く感じた。

『謙也、またね。』

「おん、またな。」

軽く触れるだけのキスをすると
ピーッと駅員さんの笛を吹く音がホームに響き、電車のドアが閉まった。

『謙也!私っ毎日連絡するからっ!メールもっ電話もするねっ!』

「俺もする!するからっ…名前!!はよこっち帰ってきや!」

『っ!うんっ!!』

電車は段々と速度をあげていき窓から見えるのは、謙也ではなく大阪の景色になっていた。
その景色を見ながら謙也と一緒に過ごした時間を思い出しながら目をつむり、電車に揺られていった。


*01 End*

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