本
□青き伯爵
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すると門の前に豪奢な馬車が止まった。
仕立てのいい燕尾服に身を包んだ一人の男が御者に助けられながら馬車から降り立った。
「おい、ロン」
「ああ、アル」
兄二人は枝を一ヶ所に集め、門の方へ向かった。
門の前に立っているのは、背の高い風来の男で青い髪、青い髭を生やしていて、目の下には隈をつくっていた。
男の「青」は他人を寄せ付けない研ぎ澄まされた冷たさがあった。
冷酷さ、知性、厳格さといったものが、男の全身から滲み出ている。
「……えっと、何の御用件でしょうか」
二人の兄のうち一人が男に対して聞く。
男はそれに答えた。
「ここの領主の娘を嫁に欲しい」
そしてもう一人の兄が口を開いた。
「何処の馬の骨か解らねぇ奴に大事な妹を……」
言葉は途中で遮られた。
一人の兄がもう一人の兄の口をてで押さえたのだ。
「す、すいません。いきなりだったもので……」
口を押さえながらた兄が男に向かって頭を下げる。
「ではまた、後日来よう」
男はそう言い、向こうで三人を見ていた女を見つめて、馬車に乗った。
一瞬、男は女に微笑んだが、兄二人はそれを知らない。
馬車が走り去り、未だ手を当てられていた兄は手を強引に離した。
「ぷはっ。何なんだよあの男」
「まあまあ、アルそんなに怒こるなって。
メシーアの意見も聞かな、く……ちゃ」
兄一人が女を見ると、頬を赤くし、走り去った馬車の方を見つめる妹の姿。
「……はっ」
我に返った女。
そして女が見たものは、女を見て硬直している兄一人と、不機嫌な兄一人の姿だった。
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