未来へ走る船 第一部

□第五章 珍獣島での船番(2011.11.20)
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第五章 珍獣島での船番



二羽のカモメが風に乗るように飛んでいる広い空の下。

青い海には二隻の船が波に漂う。

ゾロはバギーとカバジから受けた傷を寝て治しているようだ。

ミコトはナミが帽子を直していくところをルフィと一緒に見ている。

手際よく縫い合わされていく様子は、ルフィとミコトの顔を自然に緩ませた。


「はい、直ったわよ」


「なおったーっ!」


ルフィは帽子を片手にバンザイして喜ぶ。


『ナミ、すごいっ! お裁縫できるなんて……私、出来ないからな』


「そんなことないわよ……応急処置よ。 穴を塞いだだけ、強くつついたりしない限り大丈夫だと思うけど」


ミコトに褒められ照れるナミはルフィに忠告するが、喜ぶルフィの耳には届いていない。

直ったことに嬉しくて帽子を突いている。

直後――ズボッ!


「あ」


人差し指が帽子に見事に埋まる。


『あ』


ミコトは目を丸くして指が突き抜ける帽子を見つめる。

体を震わせているのはナミだ。


「人の話をちゃんと聞けェ!」


ブスッ!

ナミはルフィの眉間に針を刺した。


「針で刺すなよ! 痛ェだろ!」


「殴っても効かないから、刺すしかないでしょ!?」


「ああ、そりゃそうか」


「お前ら、うるせェな。 眠れねェじゃねェか……おれはハラもへってんだ……」


ゾロが騒がしさに目を擦りながら起き上がった。


「おい、何か食料わけてくれよ」


『ナミ、パンもらってもいい?』


「はァ……いいわよ」


パタパタと走り船室に取りに行くミコトは、オレンジの町を出港してから、ナミの船に乗っていた。

発端は――ナミが母親みたいなことを言ったところから始まった。


「男二人とそんな小舟に乗るなんて、ありえない。 ミコトは女の子なんだから、こっちの船に乗りなさい」


当然、ルフィは反対した。


「何!? ミコトはおれの仲間だぞ! おれの仲間は、おれの船に乗るんだ」


「いい加減、わかってるわよ! そんなの!  これはそういう問題じゃないでしょ! ミコト、攫ったりしないから、こっちに来なさい!」


「攫うってなんだ!?」


「しないって言ってるでしょうが!」


『ルフィ……この場合、ナミのほうが正しいし行くね』


「待て、ミコト! じゃ、おれも行く!」


ベシッ! 

ナミが船の縁に足を掛けたルフィを叩く。


「……っ!」


「あんたがこっちに来てどうすんのよ!」


「おれだって、そっちの広い方に乗りてェ!」


「駄目よ! こっちは女専用。 そっちは男専用よ!」


「何だよそれ」


「今、私が決めたの! 文句ある?」


ナミの手には肉とパン。


「ありません」




――という一騒ぎの後、ミコトはナミの言う事に素直に従い、現在ナミと一緒の船で過ごしていた。

ミコトがパンを取りに行っている間、ナミが航海についてルフィとゾロに説教をしていた。

しかし、二人は全く聞いていない。

そこにパンを片手に戻って来たミコトがゾロに渡す。


『ゾロ! はい』


「ありがとな」


すぐにパンにかぶりつくゾロをナミは呆れた顔で見る。


「よく今まで、生きてられたわね」


「まあ、何とかな」


一方、海をジーっと見るルフィの目に島が見えた。


「おい、島だ!」


「ああ、あれはダメね。 無人島よ。 行くだけムダ。 進路はこのままで……」


しかし、ルフィとゾロはナミの話を完全に無視して船を漕いで、勝手に島へと向かう。


「待て!」


ナミがすぐに止める……が、二人が漕ぐ小舟はどんどん離れていった。

双眼鏡を片手に持ち、ミコトに振り返るナミの表情は呆れかえっていた。


「ミコト……あんた今までよくあの二人といれたわね」


『えっ! なんで? 楽しいよ。 何が起きるかわからないし……ナミは楽しくないの?』


「……あの二人が、もう少し慎重だったらね」


ナミの心配を余所にミコトは笑顔をみせる。


『ナミ、考えてたら冒険できないよ! 早く行こ!』


「ミコトって意外に……」


『ナミ?』


「はぁー……行くんでしょ」


ナミは溜息と一緒に肩の力が抜けると口端で笑う。


(冒険か……たまにはいいかもね。 こういうのも)
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