番外編

□麦わらの一味の小話
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“借りの返し方”
ウイスキーピークより。
その二、夢主キスされる。


   ◇◆◇


ニコッとミコトが笑うと、何か思いついたのか、ゾロの目が気持ち開いた。


「ああ………!」


『何? なんかあった?』


「いや……いい……」


聞かれたもののゾロは言うのを躊躇った。

ミコトはというと遠慮しないでと微笑した。


『言っていいよ』


「…………」


ゾロとミコトは月明かりの下で見つめ合う。

確かにあるといえばあるが、頼めるものでもない。

ゾロは言えるわけないと無言だ。

何も言わないゾロをミコトは呼ぶ。


『……ゾロ?』


「……いや、何でもねェ」


視線を逸らしたゾロは、過った考えを消そうと眉根を寄せる。

男が戦って暴れた後に、やりたい事なんて決まってる。


(出来るわけねェ……)


酒が飲めるだけマシだと、自嘲するようなゾロの口元に、ミコトは訝しんだ。


『何?』


「……ま、そのうち考えとく」


はぐらかそうとするゾロは酒を一口飲む。

その様子にミコトは隠したと感じる。


『ホントはあるんでしょ……』


「何もねェよ」


川を見てミコトを見ようとしないゾロ。

ミコトは何かあると疑って、ジッと横顔を見つめた。

すると、ゾロが聞こえない息を吐いてミコトを見た。


(――ったく、こいつは……。 どうなっても知らねェぞ)


月明かりの印影がゾロの顔半分を隠す。

初めてのグランドライン。

初めての島。

満月の夜に、百人の賞金稼ぎを斬り伏せた。

今は達成感で、美味い酒を飲んでいる。

酔っている意識はなくても、本当は酔っているのかもしれない。

そして、ミコトがあまりに無防備なのも悪い。


「……ミコト」


何? と見つめるミコトにゾロは後悔すんなよと、酒瓶を置く。


『え……?』


雰囲気が変わった事にミコトは躊躇う。


(な、何……)


見開く瞳はゾロを見つめた。

隣に座っている二人の距離は近い。

ミコトの耳に聞こえていた川の流れる音が遠くなり、心臓の音が近くなる。

ゾロのピアスがカチャリ……と揺れた。

一瞬、気をとられて視線が外れた時には、ゾロがミコトに近づく。

目の前にいるんじゃないかと思うくらい近い。


『……えっと、ゾロ?』


ミコトの戸惑いにゾロは口元を上げた。


(さすがに気づいたか……。 でも、もう遅ェ)


止めていた理性という枷をゾロは斬ってしまった。


「返すんだろ?」


迫るゾロの気配にミコトはどうしていいのか分からずにいる。

ただ、体が無意識に動いて、引いてしまう手をゾロに握られた。


『ゾロ……』


呼ぶ声にゾロの動きが止まる。


「目……閉じろ」


見つめ返すミコトの瞼は落ちない。

―― 何故、こんな事になっているのだろう。

互いに思っていても止められない。

閉じないミコトにゾロは片眉を上げた。


(今更やめねェけどな)


緊張しすぎて動けないミコトは、もう一度呼ぼうとして、間近のゾロに呼吸が止まる。


(ゾロ……)


目が合って酒の香りがした瞬間――瞼を閉じた。

ふわりと触れて、すぐに離れた。

ミコトが目を開ける前に再び重なる。

逃げだしたい気持ちが出て、ゾロから離れようとした。

――が、ゾロに頭を押さえられてしまう。


『……っ…』


息を止めてしまっていたミコトが苦しくなって、酸素を求めた。

睫が震えて、唇がハッ……と息を吸おうと開く。

僅かに離れるが、ゾロに吐息ごと塞がれる。


『んっ……』


舌が入りこみ絡んだ。

甘いと感じるのは酒。

酔うのはキス。

力が入らなくなるミコトは、ゾロへ縋るように手を伸ばした。

見つめ合うように、引き寄せられる。

溺れたのはどちらか。

二人の影は月明かりに溶け込んだ。
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