My Turn
□運命の人
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ねえ、運命って信じる?
そう言った時のあいつの目があんまり綺麗だったから、俺はただ頷くことしかできなかった。
裸のあいつを抱いたまま朝が来てもちっとも動き出さない俺に向かって、笑う。その見慣れた笑顔が、どうしようもなく俺の心臓を突く。
痛みなのか、喜びなのか。それさえもよくわからなくなった頃、俺は知った。
小さい頃から俺の隣にいるあいつのことは誰よりも知ってる。あいつは俺に隠し事をしないし、俺もあいつに隠すことなんてない。
たぶん、切っても切れない何かで結ばれてる。その何かってのが運命なら、明るい日差しの下、あいつから手が離せないことの理由になる。
「いい加減、離してよ」
しかめ面にしかめ面で返すと頬をつねられた。
「いてーよ」
「バイトでしょ? 早く起きて」
細い指が枕にしていた俺の腕を掴む。不機嫌な表情を隠そうともしない。「お腹すいた」と口を尖らせる。
「俺のセリフだ」
「何か作ってよ」
自分はベッドから出ようとしないくせに、俺には起きろと言う。
部屋の中は外のように寒くて、体温が欲しくなる。俺がこの季節が嫌いなのをこいつは知ってるはずなのに、無理矢理布団を剥ぐ。
「ねえ、お腹すいたってば」
「お前んちだろ。お前が作れよ」
「やだよ、寒いし」
我儘なのは昔から変わらない。
渋々起きるのはいつも俺。そのことに腹を立てることもなくなったのは、いつからか。
鈍感になっていくことは悪いことじゃない。
こいつが俺の隣から煙のように消えてしまうなんて想像をして震える俺は、運命ってやつを信じているのか、いないのか。
ただ、一生ここに、俺の隣にいればいいと、言葉にして伝えることも俺にはできない。
こいつがどんな顔をするか、正確に頭に描けるせいで怖くて言えない。
運命でつながっているのなら、不安なんて感じることもないはずだ。だが、俺は常に恐怖と戦っていて、いつどんな時にでも、こいつが俺の世界からいなくなるんじゃないかって恐ろしさに怯えながら必死で耐えてる。