My Turn

□右手の甲に口づけを
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 右手の甲に口づけを、脳裏に愛する彼の顔を浮かべ、男は目を細めてかすかに頬を緩めた。床に落ちた三つの薬莢がいまだ音もなく転がる。見慣れた赤い体液がじんわりと血溜まりを広げ、男の靴裏を汚した。

 無残に横たわった死体は黒いスータンを身につけていた。開いた目は空を睨み、空虚を映す。死の直前、この教職者が何を思い、何を感じたのか、知る者はいない。

 男は穴の開いた死体を担ぐと礼拝堂の間、大きな十字架のそびえ立つ祭壇へと進み、そこに乱暴に置いた。男のジャケットに赤い染みが地図を作ったが、男は気にする素振りを見せなかった。
 それは、男の着ている漆黒のレザージャケットが黒ではなく、赤黒かったからだろう。渇きによって飢えた皮が血を吸って柔らかくなる。
 死体の重みに耐えた体を労い、腕を大袈裟に回す。いつもと違うジャケットの柔らかさに男の眉がくいと上がった。

 細かい装飾がされた高価なボタン一つ一つを丁寧に外し、冷たくなりつつある裸体が晒される。脂ぎった顔同様腹部にも脂肪によって丸みが帯び、脱がされたスータンによって隠れていた醜い体がそこにあった。
 鋭い閃光がキラリと眩い光を放ち、男の狭めた視界を奪った。愛用しているエマーソンのナイフは、ポケットから出したと同時にその美しい刃をオープンさせ、男は死体にその光を突き立てた。


 数時間後、そこに足を踏み入れたのは礼拝堂で働く献身的な信者だった。
 信者は変わり果てた姿になった師を見て天に向かって声高く叫ぶ。

「おお神よ、こんな惨いことがあってよいのですか!」

 ナイフによって遺体の胸に刻み込まれていたのは、ラテン語の文字。

『dextræ meos retrorsum』
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