My Turn
□黒い飾花(かざりばな)
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父と母の仲がどうだとか、息子である私にはあまりよくわからない。母は父の妻であり、父は父だったというだけだ。
だが、喧嘩をしている姿を見たことはないし、互いに口をきかないなんて場面を見たことはなかった。
喪主である母の目の前で父の棺に花が入れられた。
遺影の周りに飾られた美しい花々は首だけを切られ、参列者に配られる。
棺を花でいっぱいにしてあげてください。
そんなことを言われたと思う。
私は手に持った白い菊や白い百合を膝の上に置いたまま立ち上がることができなかった。母も、そして親族たちも同じだったのだろう。すすり泣く声は式場に溢れていた。
親族席の目と鼻の先で、父の棺に花を添えるという儀式を行う長い列ができて、大勢の参列者は一人、また一人と減っていく。
親族と異なり、彼らにはあまり時間を与えられていない。参列者たちは皆一言だけ亡き父に捧げ、飾花を置いて去る。
はじめ、私は何も気付かなかった。
光景すら目に入れてなかったのかもしれない。
だが、明らかにおかしかったのだ。
一人の参列者だけ、不自然に長かった。
長い、という表現は違う。
ずっと、と言った方がよい。