My Turn

□食わず嫌い
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「飲んだことはあるのか?」

「いや。その白い肌がなんとも好きになれん」
 心底嫌そうな顔をして、ヴァンパイアは指の長い手を払う。

「ヴァンパイアといえば、生き血を吸い、赤ワインを愛する」

「ワインは白がいい」

「飲んだことはあるか?」

「いや。どうにもあの濃い色が好きになれん」

 肌の白い処女の血も、深紅のワインもダメ。
 彼は脱力した体を無理矢理に動かして、少女の元へと歩み寄る。
 確かに、息はある。怪我もないようだ。

「お前、ヴァンパイアなのか?」
 顔を上げて尋ねると、ヴァンパイヤは不敵に笑う。

「お前、ではない。私の名は、スタニスヴァニラス・ナラハンド・ベニチェスタ・G・シェリル。シェリル一族はヴァンパイアの血族で、私はシェリル六世であり、シェリル伯爵でも、シェリル閣下でも、シェリル様――」

「ああ、わかったよ。伯爵」
 長い自己紹介をさえぎって彼が手を上げると、ヴァンパイアは人間のように肩をすくめた。
 失神した彼女を背負い、彼は薄暗い部屋の入口へと足を進めた。

 ふと、かかとを鳴らして立ち止まり、後ろを振り返る。

「デザートは?」
 先程言っていた言葉を思い出したのだ。
 厄介な仕事を頼まれたと思っていたのだが、こんな簡単に解決できるとは予想外だった。彼はこのヴァンパイアに感謝の一つでもしようと頬を緩める。

「ロールケーキだ」
 なんとも可愛らしいデザートだと目を丸くすると、女嫌いのヴァンパイアはまた両手を広げて肩を上下させた。
 どうやら、このヴァンパイアの癖のようだ。彼は笑顔を見せて言った。

「山ほどフルーツがのった高級ロールケーキを届けさせよう」

 陽が顔を出すまでまだ数時間ほどかかるだろう。開いた扉の外は真っ暗だった。
 とりあえず、尻軽女を父親の元へ届け、もらった報酬を手に、開店したばかりだという美味いと評判のケーキ屋に行こう。


「ありがたいな。だが、その前にお前の血を頂くことにする」

 言葉の意味に気付く前に、瞬時に移動したヴァンパイアが口を開けて彼の褐色の肌に牙を向けていた。

 ああ、確かに食わず嫌いは直らないものだ。

fin.
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