My Turn
□食わず嫌い
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「私の名は、スタニスヴァニラス・ナラハンド・ベニチェスタ・G・シェリル。私はシェリル六世であり、シェリル伯爵でも、シェリル閣下でも、シェリル様でも、親しみを込めてスタニスヴァニラス、いやスタンとでも呼べばいい」
彼は目の前にいる男の話の半分も聞いていなかった。
若い女が一人、床に倒れており、その白い肌があらわになっていた。豊満な胸元がドレスから垣間見え、彼は思わず喉を鳴らした。
「お食事中にお邪魔したかな? えーと、伯爵?」
スーツの内ポケットにある聖書を軽く撫ぜ、処女の血を貪る闇夜の王ヴァンパイアを睨む。
「いや、食事はもう済ませた。デザートがまだだがな」
エンジニアブーツに仕込んだ十字架のナイフを取り出すタイミングを図りながら、彼はゆっくりと間合いを縮めていく。
妖しく微笑むヴァンパイアと緊張した面持ちの探偵との間に横たわる少女は、誰もが振り返る美貌の持ち主で有名な実業家の一人娘であり、その容姿とその幸運な家柄に数え切れないほどの男が群がる。
百合のように可憐で、生まれつき体が弱いわけではない少女が処女かどうかは、考えなくてもわかる。一万円札を見せられて、千円札か? と聞かれるほど簡単だ。
彼の目当ては報酬である。決して彼女が目当てではない。義理の父の遺産が欲しいのではない。
「殺してないだろうな?」
念のため問いた彼は、漆黒の衣服に身を包んだ目の前に立つヴァンパイアの両手を広げて肩をすくめる仕草を見て、大声を出した。
「貴様! 女を殺すなんて。外道め」
娘を生きたまま取り戻すこと。
それが探偵である彼に与えられた仕事だった。この時点で彼女が殺されたのであれば、報酬はパーだ。夢も遺産もゼロだ。
「殺してはいない」
ヴァンパイアは左右に首を振る。
「血を飲んだだろ!」
「いや」
「処女の血が好物だろ!」
床に倒れている金持ちの娘は、決して処女ではないが。
「いや、女は苦手だ」
不思議なことを言うものだ、と彼は思わず首を捻った。
緊張感は解かれ、ただ気を失っているだろう女をそのままにして、彼は別の興味を抱く。