My Turn

□小さきものよ「番外編:坂口」
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 駅の周りに建つ背の高いビルが遠くの方にそびえ立っている。
 彼女は時代と共に変わりゆく景色に魅入られているでもなく、天候によってうっすらと姿を現す遠くの小さな山々を眺めるでもなく、ただその南向きの窓から見える大きくもない公園に視線を落としているようだ。
 クリーム色のソファの横、テレビ台とテーブルの間のその場所は、この部屋の中の彼女の定位置で、彼女はいつも網戸越しに、ジャングルジムによじ登って遊ぶ子供たちや風に揺れる寂しげなブランコ、散歩中の飼い犬が体を寄せるベンチや野良猫が井戸端会議をするために集まる砂場をじっと見ている。

 集合団地の八階にある彼女の家は、惨たらしい事件があった後も変わらず同じ主を住まわせていた。

 窓際で丸めた背中をこちらに向け、膝を折って胸に抱き、茶色の髪の毛を悪戯に細い指に絡ませ、力ない瞳で公園を見下ろす彼女は、いまだ自分を迎えに来ない誰かをただじっと待っている。

 さすがに坂口にもわかる。
 二人の約束の場所がどこなのか。彼女の近くで彼女を観察していれば、それが幼い頃最愛の兄と遊んだであろう思い出深い公園が、二人にとって特別な場所なのだということが。

「彼女が来てるよ」
 坂口に告げた台詞のどこにも温かさや優しさの欠片も感じられなかった。彼女は目に入った女の存在を坂口に伝えただけだった。

「ちょっと行ってくるよ」
 椅子にかけた上着を手に取り、背中を向けたままの彼女を一瞥してから坂口は玄関に歩を進めた。
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