My Turn
□酔狂な魚 ツカイリュウ
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『ここはどこだ?』
見上げた空には見渡す限りの窓があり、見る者を魅了する美しさを反射した光が表現するわけでもなく、くもった灰色の四角形が終わりのない列を連ねていた。
テレビでしか知らない芸能人の巨大な顔が建物のてっぺんの枠の中で窮屈さを感じさせない笑顔を見せている。夜も昼も関係なく照らすネオンが政治家の名より有名な電気店やローン会社の名をでかでかと宣伝していた。
オレンジ色や緑、黄色といった派手なカラーで彩った車たちが透明の牢越しに人を乗せクラクションの音と共にせわしく走っている。
片手に持つ小さな電話にプライバシーと秒単位のスケジュールを牛耳られた者たちが、外部をシャットアウトするために爆音を鼓膜に響かせて親指を動かしていた。
忙しそうに歩く人波は障害物を素早く避け、いかに速く前へ進むかを競っているようだ。足を動かし続けなければ、息が吸えない。生きていけない。泳ぎ疲れた魚は深海の闇の中へただ落ちていくだけ。
彼らは一体どこへ向かっているのだろうか。
熱を持ったコンクリートのあちこちに、ぽっかりと口を開けている地下への入口がある。高速道路の分岐点のような複雑に絡み合った人波はその口の中に飲み込まれていた。