My Turn

□オーロラのしっぽ
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 画面には漂う光の帯が、色とりどりに輝く鮮やかなカーテンが映し出されていた。藍色の空に浮かんで揺れるカーテンは大気に流れるかすかな風に舞っているようだった。放つ色は一つではない。緑色とも表現できるが、オレンジや赤い部分、黄色く発色している箇所もある。
 色は一カ所に留まらず、緑だった場所は赤くなったり、黄色だった所はオレンジに変化したりとその姿を変えている。深海魚に体を発光させながら泳ぐ魚がいるというが、夜空を自由気ままに泳ぐ魚のようだと彼は一時停止ボタンにマウスを動かした。


 便利な世の中になったものだと、停止したパソコン画面を眺めながら彼は寄りかかっていたベッドから背中を離した。前のめりになり画面から数十センチの所まで顔を近づけ、四角い画面の中の発光する魚を視界いっぱいにした。
 人生を賭けて世界中を回ったとしても目にできない物があるはずなのに、今では数多くある動画サイトなどで簡単に見聞きすることができる。
 見たことのない物など、この世にはないのかもしれない。
 知らない物など、もうどこにも存在しないのかもしれない。


 しばらく画面を直視していると遠慮気なノックの音が彼の耳に入ってきた。

「もう就寝時間を過ぎてますよ。お体のためにも早く寝てくださいね」

 十五センチほど開いた扉の隙間から顔半分を見せた女は、たしなめるでも非難するでもない優しげな声音で言い、右半分で微笑んだ。たった一つの瞳が画面から漏れた光に反射して光った。

 彼は小さく頷き、少しだけ上がった半身の女の口角を見ていた。

 白衣が似合う彼女は、体が半分しかないのかもしれない。十五センチの体。鼻の中心から切り取られた半身女だったら、右半分と左半分で分身を作っていたとしたら、夜間の見回りはかなり楽になるだろう。
 おかしな想像をした己に彼は笑った。
 昼間は一人、夜は片身。昼の彼女は面倒見のよい優しい看護婦だ。毎日行われる検温も決まりきった挨拶も、いつも丁寧にしてくれる。だからかえって、夜間は手抜き。半身で一人の倍の働きができる。
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