My Turn

□天使の梯子(BL)
15ページ/31ページ


 驚きで頭を上げると視界には木材の格子と大きな枕があった。私の頭部にのっていた何かが落ち、ゴトと音を立てて床を滑る。
 ベッドにうつ伏せになっている状態を悪夢のかけらの残る頭でおほろげに把握し、昨日一日を思い出す。
 体調を崩し、帰れなくなってスキー場に隣接されている宿に泊まったのだ。

 背中に重みを感じて反対側に振り向くと規則正しい呼吸のリズムに動く胸とまつ毛の長い男の顔があった。男の片手は私の背中に置かれていて、微動だにせずそこにあった。
 記憶を司る脳の一部に働きかけ、どうにか昨日のことを思い出す。まだ思い出しきれてないことがあるのかもしれない。
 金髪の混じる髪、ピアスの穴がいくつも開いている耳、やたら細い眉、色白の肌、見覚えのある焼けた顔。
 この男が誰であるかはわかったが、なぜ同じベッドで一緒に寝ているのか。なぜ身動きが取れないほど密着しているのか。

「河内! 河内!」
 起こした方が早いと私は隣で寝ている河内の頬を軽く叩き、固く閉じられた目を開こうと試みる。
 唸るような声を出して河内は眩しそうに目を開けた。

「あれ? もう朝?」

「朝だよ、起きろ」
 部屋に充満する朝日の光を拒絶するように強く目を閉じて、河内は私の体に触れるのも構わず手足を伸ばす。
 私は眉間にしわを寄せ「早く起きろ」と声を荒げた。
 河内は気にする素振りも見せず、目を擦りながら言った。

「おはようございます。織田さん」
 笑顔で挨拶をする河内を見て、私は大きく溜め息をついた。

「早くどいてくれ、起きれないだろ」
 なんでここで寝てるんだ? という問いを口に出せず私は苛立ちをあらわにした。

「すみません。体の具合いはどうですか?」
 慌てたように上半身を起こし、私を覗き見る。
 うつ伏せた体をねじり、天井に顔を向ける。全身の動作の鈍さは筋肉痛のせいだろう。動けないというわけではなさそうだ。

「大丈夫だ」

「良かった」
 ほっとしたように笑顔を浮かべる河内に何と言ったらよいかわからず、とりあえず礼を言う。宿まで連れてきてもらったのだから、礼の一つや二つするべきだろう。

 だが、この状況をどう受け取るべきか。
 私がベッド上に座り、言葉を選んでいると河内はさぞ当たり前のようにバスルームに足を運んだ。
 頭に疑問符が浮かんだまま、私は朝の日課である足のマッサージを始める。
 普通の感覚の大人が添い寝などするだろうか。男女ならあり得る話ではあるかもしれないが、私たちは男なのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ