My Turn
□天使の梯子(BL)
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「オーダ! オーダ!」
真っ白い大地を滑り下り、斜めに横切る景色がその速さに形を失い、私はただ一点だけを見つめて板を走らせる。
脳内に広がる幻聴は以前の私の名を呼び、その歓声を響かせる。
運が悪かったなどと言えるものではない。
天は私を選んだのだ。
地獄を見せる人間として、私を選んだのだ。
なぜなのか? 自分に問いても誰に聞いても答えは得られない。
運が悪かったなどと言えるものか!
きついスラロームに入る準備ができていなかった。体が硬直し、頭が割れるように痛み、急激に寒さを感じた。
急な斜面に恐れをなし、視界がぼやけていた。
速過ぎるスピードのままカーブが続く。板を操るというよりしがみついているかのように足を強張せ、うまくカービングできない。
目の前に迫る白い壁は私を迎え入れているようだった。衝撃がくると身構えて、私は強く目をつぶった。
「オーダ! オーダ!」
両手を上げて歓声に応える。
努力が実ったと感じ、感極まって空を見上げる。青く澄んだ空が私を祝福しているようだった。私は多くのプレッシャーに耐え、自分自身が求める期待に応えたのだ。
充実感で心を満たし、高きプライドを守り抜いた達成感に何度も拳を振り上げた。
気付けば雪に埋もれた自分の体を感じた。
カーブにぶつかり、反動で反対側の林の方へ飛ばされたようだ。大きな怪我はしていない。ずきずきと体中が痛むが、激痛ではない。
頭を打ったのか頭部を触るとぷっくりと腫れた場所があった。指の平で凸凹(でこぼこ)とした縫い目に触れ、膨らんでいる箇所の反対側であることに安堵した。
頭皮の縫い目は十センチほどの傷になっている。指でなぞり、同じ場所だったら死ねたかもなと自虐的に笑った。
空が暗くなっている。何時間こうしていたのか、私は時間の感覚をなくしていた。
雪が降ればいい。
そのまま私の体を覆ってしまえばいい。
空には雲が厚くその色を隠している。太陽が沈む時に見せる幻想的なグラデーションが見れないのが残念だ。
群がる木々の隙間をぬって風が音を発していた。