My Turn

□小さきものよ「二章:夏生」
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「お前ら、本当に双子かぁ?」

「全然似てないじゃん」
 同級生たちの悪意のない言葉に夏生は怒る。双子の妹がほっぺたを膨らませて、同級生たちを睨む。小さなランドセルを背負ってあざけり遊ぶクラスメイトへ夏生は吠える。

「似てなくても、双子だ!」
 言い張る夏生は、目に涙を溜めている妹の背中に優しく手を置く。

「母ちゃんとも似てない」

「雪絵は誰の子だぁ?」
 妹は、母親を知る大人達に似てないねと言われることに慣れはしたが、夏生との双子の絆を否定されることには我慢ができない。むきになる姿を見て楽しむ同級生からはかっこうの餌食だ。
 ついに泣き出した雪絵はしゃっくりを上げながら口を開く。

「なっちゃんの妹だもん。双子だもん」
 小さな声で必死に抵抗する雪絵に夏生は毎度同じセリフを口にする。

「そうだよな、俺たち双子だもんな」
 かわいい妹を泣かされ、その心を傷つけられた夏生はランドセルを放り投げ、笑いながら公園を走る同級生を追いかける。小学生とは思えないほどの背丈、体も心も成長の早い兄夏生、小学生とは思えないほど背も体も小さい雪絵。似てない兄妹もいる。だが、彼らは双子なのだ。
 双子であるから、同じ日に誕生日を迎え、同じ家に住み、同じ母親を持てる。
 双子であることが、共に生きていく絆となり、双子の兄であるから、双子の妹の雪絵を守るのだ。

 雪絵を守るために俺はいる。



 父親はいない。
 物心ついた時から母親と雪絵の三人しかいない生活だった。大きな通り沿いに立つ四棟の団地のD棟の一室には、すぐ横を走る車の音が夜遅くまでひっきなしに響いていたが、幼い二人の子供には子守歌のようだった。
 母親は夏生には優しい母だった。夜仕事に出掛ける時も、朝シワの目立つ疲れ顔をしている時も頭を撫ぜて笑顔を見せていた。
 だが、母親は雪絵には笑顔を見せることはなかった。妹に対する母親の態度や投げやりな言い種を日頃見聞きしていると、同級生の嘲笑いながら発する言葉が夏生の不安を一層大きくさせた。脳裏に浮かぶ恐ろしい考えは誰にも言わず、頭の片隅にしまってあった。
 母親や妹を傷つけたくはない。

「お母さん、これ」
 手に学校で渡された手紙を持ち、雪絵が小さな声を出した。雪絵の方を一切見ず、テレビ画面を見たまま母親は何も言わない。

「ここに置いておくね」
 お母さん。
 小さな声で母親を呼ぶ雪絵はいかに無下に扱われてもその愛を求めることをやめなかった。母親に笑顔で話し掛け、学校であったことや兄と遊んだことをけなげに話した。母親が自分の話を一切聞いていないとしても、自分を嫌っているとわかっていても、それでも母親の笑顔を求めた。
 夏生は痛みの走る心を守るようにその姿から常に目を逸らせた。
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