My Turn
□ヴィア・ドロローサ(十字架の道)
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彼の第一印象は、人懐っこい笑顔だった。
よく笑い、よく話す。
「そうだ。初めて会った時のことを話そう」
彼はそう言うと月明かりに照らされた頬を丸く上げてにやりと笑った。
取材と言ってもそんな大げさなものじゃない。
大学のサークルでおもしろ半分で入った映画同好会。観た映画のレビューを見たり書いたり論じたりする上で必要な情報を得るために行うもの。
彼の話を聞きたいと思ったのは、彼の運営しているサイトが興味深かっただけで、別に本を書こうだとか論文にしようだとかそんな大きな目的があったわけじゃない。
ただ、おもしろそうだったからだ。
サイトに書かれていた管理者の名前には「サヤマ」とあった。
「おもしろかったの? その映画は」
連絡を取って取材したいと伝えると快く応じてくれた。どこか喫茶店などで会うのかと思えば、彼は自宅に招き入れてくれたのだ。
「はい、それなりに」
俺の答えに首をかしげて唇をとがらせた。彼の部屋にあるテーブルに向かい合って座るとコーヒーの香ばしい匂いがした。
「守谷くんだっけ? その映画は何回観たの?」
「一回です」
ふーんと言いながら彼はキッチンに姿を消した。
「それじゃ何にもわからないと思うけど。その映画、結構凝った作りしていたはずだけどな」
彼の声が愉快そうに弾んでいる。
「本当ですか?」
俺は彼に聞こえるように少し大きめの声を出した。香り立つコーヒーを手に座っている俺の横に歩み寄った彼は、長身を曲げ笑いながら「本当だよ」と言った。
「影とか霧とか光とか。なかなかいい描写をしてた。それで」
映画の話を続けるのかと思ったら、彼は口を大きく開けて笑顔になると頬杖をついて俺を見た。
「守谷くん。本当のこと、知りたい?」