Sour1
□Burning Blood7
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「何か言いてぇことがあんなら、俺に言えよ、ヒロ」
ヤナセは自分の頭に血がのぼっていくのを感じた。その感情をはっきり自分で理解できていないせいで、苛立ちが一気に体の芯まで侵す。
つい最近、警察署で言葉を交わしたというのに、その事実さえ脳裏から消えていた。目の前にいるのはいつだって邪魔をしてくる警官の一人。
ヤナセは敵意を目に宿し、後ろを向いた。
「てめーは何しに来たんだよ?」
交通捜査課の制服といえるスーツを身につけ、奈良はポケットに手を入れたままヤナセを見ていた。
公園を囲うひざほどの高さの柵の外、奈良は一人で立っていた。
「ヒロに用がある」
「はぁ? 何の用だよ。言えや、ここで」
「聞こえなかったのかよ、てめぇ。ヒロに用があるって言ってんだろうが」
表情は変えない。声のトーンも同じ。
ただ奈良の言葉遣いは、喧嘩腰。
ヤナセの怒りに火をつけるのは、ライターに火を灯すより簡単だった。
「だから、何の用かって聞いてんだろーが! ああん? てめー喧嘩売ってんのか? コラぁ!」
ベンチから腰を上げ、立ち上がって奈良を睨みつける。
「待てよ、ヤナセ」
カズが制止の声を上げた。
「てめーは黙ってろや。おい奈良、後輩に手ぇ出そうなんていい根性してんじゃねーか! 俺が相手してやんよ」
「オマエ馬鹿か? 喧嘩しにきたわけじゃねぇよ。まぁ、てめぇがその気ならやってやるよ!」
「おい! ちょっと待てって」
慌てて二人の間に立とうとしたカズをヤナセも、そして奈良も視界に入れていなかった。
言いようのないピリピリとした雰囲気が辺りを漂っていた。夜の公園に佇む遊具も二人の動向をうかがっているようだった。さっきまで吹いていた風は、なぜかピタリと止んでいる。
ほんの少し、体のどこかを動かしただけでも、それがゴングになり得る。
互いの拳が飛び交う瞬間を待つ。
ゴングが鳴れば始まってしまう血まみれる激しい喧嘩を、カズには止めることはできない。ヤナセと奈良、どちらかがやめるまで、殴り合うのだ。