Sour1
□Burning Blood6
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ライダージャケットを手にベンチに腰を下ろした三十路男カズは、陽が落ちて影を作り始めた公園にある遊具に目を向けて、あるかないかわからないほどの風に揺れるブランコに首を捻った。
「なんだよ?」
「ヨシキかな?」
可笑しな仕草を見て声を上げたヤナセは、カズの意味不明な言葉に一瞬にして体の自由を奪われた。
視線の先には揺れるブランコ。
別にヨシキが生きている時に好んでブランコに乗っていたわけじゃない。
ただ、今そこにいるとヤナセとカズにわかるように鎖で吊るされた歪な椅子を揺らしているのがヨシキだとすれば、それはとてもヨシキらしいというだけだ。
「心配してんじゃないの、ヨシキ。成仏できねえとか」
いまだ揺れ続けるブランコを眺めながら、カズは呑気に言う。
姿なんて見えない。足のないヨシキとか、半透明の体とか、白い着物と頭に三角の天冠姿とか。
霊が存在しているとか、魂などないとかそんな世間の好奇ネタは関係なかった。
もしかしたら、死んだヨシキがそばにいるのかもしれない。ヤナセたちを心配して死後の世界に行けないまま、ウロウロとしているのかもしれない。
死んだヨシキに会えるかもしれないと、ヤナセは淡い希望に顔をほころばせた。
呆気なく逝った後輩とまた話ができるかもしれない。単車に乗せてやろう。一日中ツーリングに出かけよう。くだらない会話をして笑い合おう。
「なわけないだろ。マジにした? 馬鹿だなぁ」
頬を膨らませ、カズはヤナセを指差して豪快に笑った。「風だよ、風」と手を叩く。
不機嫌そうにヤナセはカズを睨む。子供のように健気に話を信じたことも、夢物語のようにヨシキに会えると思ったことも、今さらながら恥ずかしい。舌打ちをして砂利を蹴る。
確かに、柔らかな風が止んだ途端ブランコは静止した。
「馬鹿ヤナセ。ヨシキが俺らんとこに化けて出てくるわけないだろ。もっと大事な人の所に行くに決まってる」
そう口にしたカズの顔から笑みが消えていた。
「誰にだって、大事なもんがあんだろ。ヨシキにだってある。俺らより大事なもんがさ」
「ふーん。で、あんの?」
人生の先輩といえるカズを見上げて、ヤナセは問う。
むしろ、オレにはないと言っているようなものだった。
カズは親指を自分の胸に向けて、「俺?」と眉を寄せる。
「あるよ。愛車のドラッグスター、金、ラーメン、客。んで、やっとお前ら」
「あん? なんだそりゃ」
真面目に聞いて損したとばかり口を尖らせるヤナセに向かってカズは続ける。
「でも、何より大事なもんは、彼女」