Sour1

□Burning Blood5
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「あの犯人、パクられたってことかよ?」
 ぽつりとヤナセが口を開く。

「任意同行だ。まだ落としてない」※落とす=自白させる、罪を認める

「はぁ? ふざけんなてめー! 犯人だってわかってて何もしねーのかよ」
 部屋に響くほどの声でヤナセは怒りをあらわにした。
 短気は治らない。今し方警察署内で暴れて処分されたというのに、もうキレ始める。

「物事には順序ってもんがあんだよ」
 森にこっぴどく叱られた経験のある奈良は、同じ台詞を口にする。
 だが、ヤナセに理解できるわけもない。

「はぁ? 知らねーよそんなこと。よく平気でいられるな、お前。死んだんだぞ、ヨシキが。殺されたんだぞ! お前も可愛がってた後輩じゃねーかよ!」

「だからって、オマエが殴る理由にはなんねぇよ!」

「じゃ、お前が死ねよ! ヨシキじゃなくてお前が死ねばいーだろーが! したら、オレが殴る理由もねーよ。お前なんてどーでもいーからな」

 顔と顔を付き合わせて怒鳴り合う。
 その言葉は真実に近いかもしれないが、遠いかもしれない。売り言葉に買い言葉。言ってから後悔することは少なくない。

「ふざけんな。お前ムカつくんだよ」
 ヤナセは顔をそらし、小さくつぶやく。


 押し黙った二人はしばらくの間、目も合わさず話もせず、もちろん取り調べなんてものもせず、だからといって帰ったり仕事に戻ったりもせず、ただその部屋にいた。
 森が頭を冷やすために逮捕しろと言ったのだと、この時奈良は悟った。
 それは森の優しさだった。走り屋のヤナセと警官の奈良、二人の関係と立場を守るための森の優しさだった。

 備え付けの椅子に座り、隣同士息遣いがわかる距離で互いの存在を拒否できずに苛立ちだけを募らせる。ヤナセの鋭利な台詞に反論しようとしない奈良もこの重い空気に身を任せる。

 少しして、この沈黙を破ったのは一つの言葉だった。
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