Sour1
□Burning Blood3
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ヤナセが事故った。
オトンの聞き取りづらいはずの低い声が鋭い刃のようにすっと頭の中に斬り込んできて、ノイズのないその音をはっきりと、そして何度も繰り返す。知らずうちに噛んだ奈良の唇から真っ赤な血が滲んだ。
「あの馬鹿」
言いたいことは山ほどあるが、今の奈良には言葉にする余裕はない。
アクセル音を響かせ、タイヤを鳴らしてカーブを曲がり、歩行者を轢く勢いで走る車は、警察の所有車であることを悟らせない乱暴な走りで病院までの道のりを突っ走った。
病院の駐車場前に馴染みのあるバイクと見知った顔があった。座り込んだヒロと愛車に寄りかかっているオトンだ。
「ヤナセは?!」
怒鳴るように尋ねた奈良へ三桁の数字を返したオトンと会話らしい会話もせず病院内へと走る。
ヤナセが運ばれたのは、市内ではそれなりに大きな病院だった。奈良も怪我をした時に通ったことがあるが、入院患者がいる三階へは初めて足を踏み入れる。
建物の影になって窓から入るはずの日差しがさえぎられ、病院特有の陰気な暗さに浮き上がった廊下は嫌な記憶を思い出させる。
仲間を事故で失った。
大好きな単車で。
奈良の目の前で。
蹴られたサッカーボールのように体を投げ飛ばされ、宙を舞った体が叩きつけられたアスファルトは灼熱の太陽の陽を浴びて地獄の業火を感じさせた。
駆け寄ってひざをつく。ピクリともしない仲間の体に恐る恐る手を伸ばす。
世にも恐ろしい光景の中、ひざの燃えるような痛みに奈良は悲鳴を上げた。
三階廊下の突き当たりの部屋の前、脳裏にこびりついた悪夢を振り払うように奈良は首を左右に振った。
仲間の体に触れた同じ震える手で、ゆっくりと病室の扉を開ける。部屋に充満する消毒のつんとした匂いに思わず顔をしかめた。
そこには白いベッドに横になったヤナセの姿があった。真新しい傷が顔のあちこちにあり、浅黒いはずの肌が血の気を失い白くなっていた。
ヤナセの目は固く閉じていて、薄い唇は何かを拒絶するように一文字に結ばれている。目付きの鋭さを隠し、憎まれ口を叩かない分、端整な顔立ちが増す。