Sour1
□Burning Blood2
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夜道に光るいくつものヘッドライトがゆらゆらと揺らめく。
前のめりになった体をバイクと一体化させ、緩やかなカーブを気持ち良さげに運転するヒロ。ヨシキに誘われてチームに入ったヒロの内気な性格は、フェザーの上では影を潜めている。
風を全身に受け、腹に響くエンジン音をバックミュージックにして昼間と違う顔をするカズ。面倒見のいいカズは、昼は税理士、夜は年下の走り屋仲間とツーリングを楽しむ。
今日も手入れの行き届いた名車が無口なオトンの重い体を力強く運ぶ。誰よりも仲間意識の強いオトンは、キレっ早いヤナセを止められる数少ない人間の一人。「おとうさん」からきたニックネームは学生時代に付けられたものだ。
「ヤナセさん、後ろ!」
ブイマックスの後ろを走っていた後輩のヒロが大声でヤナセを呼んだ。
四台の単車の後をつけるように黒い車がゆっくりと走行している。ヘルメットの中でため息を吐き出したヤナセは睨んだ先の運転手に中指を立てた。
車の助手席の窓が静かに下がり、知った顔が笑う。
「おい、黄色だぞ。止まれ」
目の前にあるT字路の信号が黄色に変わり、思わず舌打ちをする。逃げようと思えば逃げられるが、何も悪いことはしていない。ただのツーリングに文句を言われる筋合いはない。
ゆっくりとバイクを停止させ、シールドを上げて隣に停車した覆面パトカーへと視線を投げる。
「イチイチうるせーよ、森サン。何の用だよ?」
「いい子じゃないか、ヤナセ」
窓から顔を出した警察官の森の目元のしわが深く寄った。
交通課の森のことは学生時代から知っている。腐れ縁とでもいうのだろうか。走り屋と交通課は犬猿の仲だが、ヤナセは世話を焼く口うるさい父親のような森が嫌いではなかった。
「法定速度は守ってますよ」
冷静に反論するカズはゴーグルで目が隠れていて表情が見えない。
だが、楽しいひとときを邪魔されたことで不機嫌になったのは、乱暴に吹かされるアクセル音でわかる。
「あまり大きな音を立てるな。騒音でしょっ引かれるぞ」※騒音運転違反
森の言葉にカズは首を振る。そんなの知ったことか、と口を尖らせた。ヒロはそんなやり取りを無視して下を向き、何も言わずに信号が青に変わるのを待っていた。
交通課の人間と口もききたくないのが本心だろうが、パトカーの運転席でハンドルを握る先輩には逆らえない。
「ヒロ、オマエあんまり運転うまくねぇんだから、スピード出すなよ」
顔を上げて奈良に答えようとしたヒロをさえぎって、ヤナセが怒鳴る。
「てめーにゃ関係ねーだろーが。早く行けや!」
信号は青。後ろに止まっている数台の車が奈良の運転する車が走り出すのを待っている。
睨み返した奈良を森が小突くと、勢いよく発進した黒い車が法定速度から飛び出して小さくなっていった。
「あの馬鹿」
ヤナセのため息交じりの言葉に賛同したようにオトンが肩を落とした。