Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を26
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脳裏に映し出されているのは、泣き叫ぶ住友だった。手足を縛られ、体には数え切れない程の鞭打たれてできた赤いあざが浮き、それは大きくて太い鎖のようだった。佐野は黒い棒を懸命に振るい住友に激しい痛みを与えていた。興奮していきり立つ股間の盛り上がりに手を添えれば、ビクと大きく反応する。
「どこ行くの?」
黒い愛車の助手席から住友が小さな声でつぶやいた。
「ホテル」
真っ黒い道路に照らされるヘッドライトの光が車を誘導するように前へ前へと走る。佐野はただ導かれるままアクセルを踏んでいるだけだった。頭の中に佐野を呼びながら喘ぐ住友がいるせいで、汗ばんだ手の平が滑る。
泣き出した住友をドライブに託(かこつ)けて外に連れ出した佐野は、落ち着かない心を抑制するかのように咳払いをしてから続けた。
「やだ? 行きたくない?」
念を押すように聞かれた住友は、ううん、と首を振ってハンドルに手を置く佐野の横顔を眺めた。パートナーになったばかりの頃は車内に二人、この緊張したひとときだけでも幸せに感じた。
今はもう、それだけでは満足できない。
住友も、佐野も。
「聞かせてほしいんだけど」
止まらない視線を寄越した佐野が、「何を?」と尋ねる。
わかっているはずだった。住友が何を聞きたいのか佐野はわかっていて、あえて聞くのだ。
「教官が何考えてるか」
佐野が住友本人の口から、あえて聞きたいのなら何度でも言おう、そう住友は覚悟を決めた。佐野を、佐野という男を理解したかった。
男が何を考えているのか。どうしようもなく好きな男が、どんな結論を出すのか。
「俺、教官の気持ち、知りたい」
連絡が途絶えた二週間と少し、住友は限界だった。
どっちつかずな関係をそのままにいつまでも放っておかれるのは我慢ができなかった。
足が勝手に教習所に向かっていた。
会いたい。ただそれだけのことだった。
別れることになったとしても、振られることになったとしても、佐野に会いたかった。
佐野の仕事先である教習所の敷地を跨いだその時、携帯電話がメールの着信を知らせた。表示されていたのは、会いに行こうとしていた佐野からの、待ちに待っていた佐野からの、いつもの冷静で常識的な言葉だった。
【久しぶり。大学の方はどう? 忙しい時期だろうけど、近いうち時間作れるか?】
大学のことなんてどうでもいい。忙しい時期かどうかなど、どうでもいい。
近いうちでなく、今すぐ来いって言ってくれたっていい。
会いたいと一言、たった一言そう告げてくれたら、住友はすぐにでも飛んでいくというのに、佐野という男はそうは言わない。