Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を22
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まだ学生だった頃、佐野は十二分に好きなことをしていた。派手な格好をしてバイクに乗り、喧嘩に明け暮れて過ごしていた。
青春期を暴力と共に生きてきた佐野は、自分の嗜好を知ってそれに懸命に抵抗していた。出会う女と体を合わせ、己の変わった欲求を少しでも満たそうと必死だった。だが、それは決して抗うことのできない欲望だった。
佐野は暴力に生きた。
相手を痛めつけてねじ伏せ、気が済むまで虐げる。その血なまぐさい行為に走った。だが、それはそのまま性的欲求を満たすものではなかったのだ。
SMクラブの戸を叩いたのは、そんな欲求不満に苦しんでいた時だった。
吐き出すことのできない思いを誰かに聞いてほしかった。どうすればよいのか教えてほしかった。
「あの頃?」
煙草に火をつけ、ふうと一息佐野が吐き出すと煙が長い尾を引いた。
「チョコと出会った頃」
この優男は恩人だ。佐野を救ったのはあの頃、苦しみにもがいていた幼さの残る青年の話を聞き、新しい世界を教え、どうすべきか助言したスタッフのチョコだった。
チョコもまたこの世界に入ったばかりの青年だったが、年は佐野よりもいくつか下であり、チョコはかなり早い時期からSMの世界を知っていた。チョコも誰かに救われたのだ。
自分を救ってくれた人に対して芽生える感情は、尊敬も含め恋愛感情に近いのかもしれない。確かに、佐野はチョコを尊敬していた。唯一自分を理解してくれたチョコのことが好きだった。
だが、チョコは男だったのだ。
「俺はゲイじゃないよ」
「だから、諦めたんでしょ。チョコ知ってるよ。救われた気がしたんだよね。話を聞いてくれて色々教えてくれて、新しい世界で満たされて、本当の自分の生きる価値を知って、心から楽しめた」
念を押すように、好きだったでしょ? とチョコは笑った。
表情を変えず、佐野はただチョコの笑顔に笑顔で返した。
それは肯定でも否定でもよかったのだ。このスタッフとの関係を壊したくはない。このままの距離感が互いに一番面倒でない関係なのだから、恋愛感情でもそうでなくてもどちらでもいい。
「誰かを好きになるの、嫌?」
「別に必要ないよ、今は」
「じゃ、いつか好きになる? なれると思う?」
尋ねられた質問に佐野は言葉を失った。
誰かを好きになることで大きなものを失うことになるのなら、佐野ははっきりノーと言うだろう。だが、愛情は人の心を満たすものだということも、佐野は知っていた。
何かを失ってもなお、満たされる特別な感情なのだ。