Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を20
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軽い気持ちで他人を受け入れるよう言う佐野に、住友は告げた。
その声にはふざけたり、おどけたりする節はほんの少しもなく、真剣そのものだった。
「俺は、教官を裏切ったりしない」
強い意志の表れではあったが、佐野は顔をしかめた。
「裏切りじゃないよ。主人が許可してるんだから、何も問題はない」
「なんで問題ないわけ? 意味わかんない」
ふて腐れるように言い捨てて、住友は膝を立てた。助手席の上に足を曲げて座り、丸くなって膝を抱く。
一般的でない嗜好を持っている者は、一般的な付き合いはできない。
佐野は今までと同じように、行為の意味を優先させている。感情ではなく、プレイ自体の意味を大事にしているのだ。
とりわけサディストは、感情を入れた付き合いができないと言われている。それは性格やパートナーによって異なるものだが、本質である欲求を満足させることに重点を置いているのだから、心乱される感情ほど邪魔なものはない。
これを住友に理解させるのは難しい。
若いうちは特に感情で動くのだから、余計に難しいのだ。
さらに、住友は初めから佐野に対しての感情があった。行為を欲する以上に佐野自身を求めている。
欲求を満たす行為の意味関係なく、佐野という男へ想いを寄せているのだ。
意味がわからない、と言ってしまう住友の気持ちも佐野にはわかる。
「珠理さんに会わないで。俺も教官以外の誰ともしないから」
顔を伏せて佐野を見ず、口だけを動かして住友は言った。
それは願いだったのだろう。
自分以外の誰ともしてほしくない気持ちが言わせた言葉だったのだろう。
佐野には理解できている。
住友が求めていることが何かを知っている。だが、それを受け入れることはしない。
それこそ、佐野にとって本末転倒になるのだ。
「約束はできない」
ノーに近い返事を聞いた住友は顔を上げて、無表情の佐野を見た。
「キスしてくれないのは、俺のことが好きじゃないから?」
「は?」
今日二度目の驚きに、今度は足回りが頑丈だったはずの佐野の愛車が大きく揺れた。