Sour1

□あなたに愛を、僕に鎖を8
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 やっと答えを口にした住友の生唾を飲み込んだ音が対面に座る佐野にまで聞こえた。
 佐野は焦点を住友から動かさず、ゆっくり首を縦に動かす。

 頷いた佐野の表情を見て、住友は息を止めた。
 その口は曲がり、歪んだ欲望が見え隠れするように醜くく、それでいて艶めかしい笑顔だったのだ。

 箸を持つ手から力が抜け、カランと音がしてテーブルに転がった。
 股間が勢いよく迫り上がる。慌てて両手で抑えるが、言うことを聞きはしない。
 佐野の欲求に応える自分を想像したのだ。

 体を縛られ、鞭打たれることを。
 痣のできるほど殴られ、罵倒されることを。
 佐野になじられ、フェラチオを強要されることを。

 興奮が渦となって住友を襲う。


「自制が効かないな、お前は」
 泣き出しそうになりながら股間を隠す住友に、佐野は遠慮ない言葉を浴びせた。

「まだ、何も言ってないだろ。なんで勃ってんだ?」
 煙草に火をつけ、吸い込んだ煙を一気に吐き出す。

「妄想したのか? いやらしい奴だな」
 吹き付けられた煙を顔面に受け、住友は息苦しそうに眉をしかめた。

「何考えてるんだ? ここ焼肉屋だぞ。場をわきまえろ、場を」
 嘲笑するように住友を見る。

「おい、どうすんだ? それ」

「うるせぇ! 知らねぇよ!」
 恥ずかしさと馬鹿にされた怒りで住友はわめいた。
 自分でもおかしいと思っているのだ。どうしたらいいかもわからない。自分の意思ではどうしようもなかった。
 顔は真っ赤に染まり、その色は耳まで汚染する。

「こっち見んな! あっち向けよ!」
 抑えつければそれだけ反発してくる己の欲望への当てようのない苛立ちは、目の前の佐野に向けられた。

「超ムカつく! あんた、マジでムカつく!」
 怒鳴り声は店にかかっていたバッグミュージックよりも大きかった。
 店内にいる他の客も冷ややかな視線を投げ、佐野と住友の座るテーブルには険悪な空気が包んだ。

「からかってんのかよ? 男の俺なんて眼中にないくせに、なんなんだよ、あんた! 楽しいのかよ? 最低だな!」
 人の視線など気に留めていられなかった。
 悔しさが増す。苛立ちが増す。
 男である自分も男である佐野も、どうしようもない気持ちも、その気持ちを生む心もそのすべてに腹を立てる。
 どうしようもない事がどうしようもなくて、怒りをぶちまける。
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