Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を6
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助手席に小さくもない体を幼児のように縮めている住友のその暗い表情は、見ていられないほど哀れだった。
十八にしては幼稚。自尊心だけが育ち、自分を生かしてくれている周囲への感謝に疎い。
佐野が知らぬ存ぜぬを貫いたら、どんな大人になるか、それは一目瞭然だった。
興味本位で近づいたのは、佐野だった。
好意を持って近づいてきた住友に欲望のうずきを感じたのは佐野だった。
好きか嫌いか聞かれれば、嫌いじゃない。
可愛いとも思う。
突き放すには、近づきすぎたと佐野は諦めたように頬を緩めた。
「なぁ、スミ」
赤信号で愛車を停めて、佐野は住友の方に顔を向けた。
「明日一日、やりたいバイトを探してみろ。連絡して面接の日取りが決まったら、俺に教えて」
住友は黙ったまま眉をしかめ、口を尖らせる。
「なんで? とか、聞くなよ」
口にしそうになった言葉を無理矢理のどの奥に押し込み、住友は大きく息をつく。考え込むように眉間にしわを寄せ、左右に首を何度か傾げる。
すると、何か思いついたかのように急に笑顔を作った。
大きくなった瞳が佐野の顔をじっと覗く。
「じゃあ、教官のアドレス教えて! ケータイのアドレス!」
今度ため息を吐くのは佐野の方だった。
泣き出しそうな顔をしていたかと思えば、嬉しそうに笑う。やはり子供である。
青信号に変わり、車を走らせると「ね、いいでしょ?」と住友は急かす。
餌を欲しがる子猫のようだと佐野は苦笑した。
「ダメだ。面接が決まってから」
「なんで? 今教えてよ。いいじゃん、ちゃんと面接するから!」
お決まりの台詞を吐くと、住友は飴をせがむ。
「ね? 絶対面接するから! バイトするから! ねぇ、教官、いいでしょ!」
「――ああ、もうわかったわかった」
降参したとばかりに手を上げると住友は「やったー」と叫び、車内の狭い空間で派手にガッツポーズを決める。
先に飴を要求して鞭は嫌だ、など許されない。
ならば、キツイ鞭を用意しよう、と佐野はいやらしく笑う。
泣きわめくほどの痛みを与えた時、住友はどんな目をするだろう。
脳裏に映し出された潤んだ目があまりに妖しくて、佐野のハンドルを握る手の平が湿り出した。