Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を5
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とぼとぼと歩を進める。
ゆうに三十分は超えただろう。夜の冷気にさらされて、住友の体は冷えていた。
やっと教習所が建ち並ぶ道路に差し掛かったところで、一台の車が道の端に停まっているのが見えた。
ハザードランプを点灯させている黒いセダンの外国車は、白い排気を車体の下にある二つのパイプから吐き出しており、真横の歩道を歩く住友の耳に響く低いエンジン音は通りを走る車の騒音によってかき消されるほど静かだった。
「おかえり」
その黒々とした外車が誰のものか、住友にはわからなかったが、聞こえた声が誰のものかはすぐにわかった。
「寒かっただろ。乗りなよ」
窓から出したその顔を、住友は直視することができなかった。知らずうちに止まった足はコンクリートに張り付いたように動かない。刺すような冷たい外気に体全体を侵されたせいだけでなく、こんな所で帰りを待っていた佐野の行動に、住友の唇は震えていた。
「スミ」
聞いたこともない優しい呼びかけに住友は尖っていた口元を噛みしめる。
ゆっくりと運転席の窓へと視線を伸ばす。
潤んだ瞳が捉えたのは、穏やかな佐野の笑顔で、照れ臭そうに頭を掻く佐野で、住友を真っ直ぐ見上げる佐野の目だった。
「何やってんの?」
嬉しいはずなのに出てきた言葉はひねくれていて、住友は反抗期の子供みたいな自分自身が嫌になった。
「君を待ってた」
住友がどんなに拗ねていても、佐野は気分を害すことなく答えた。
ただ待っていた。
憤慨し不平を言いながらも、こんな状況に陥った自分を呪い、肩を落として帰ってくるだろう住友を待っていた。
「俺たち似てるね」
口の端を上げて佐野は言う。
「どこが?」
「短気なところ」
住友の着ている安いダウンジャケットはあまり暖かくない。だが、嬉しさに上気した体はぽかぽかと温かかった。
似ているところが何でも構わない。佐野との共通点が一つでもあったことが、落ち込んでいた住友の心を明るくした。
車の暖房の設定温度を上げながら、「寒いだろ、乗れよ」と言い、助手席を指差す。
顔を輝かせた住友は跳ねるように歩道から車道へ進み、フロントガラスに映る佐野の姿を捉えたまま車の前方から回り込むと、助手席の扉を開けた。