Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を4
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「教官がスピードを上げろって言ったんじゃん」
「少しって言っただけだ」
「少しってどんくらい? そんなのわかんねぇし」
高速道路を法定速度以上のスピードを出して住友の運転する教習車は走っていた。
教習中とはいえ、決められた最高速度を守らねば警察官の目にも止まる。責任は住友ではなく、指導員である佐野が取ることになるのだ。速すぎても遅すぎても法に触れることになるのだから、少しと言った佐野の言葉は的を得ていたはずだった。
だが、ケチをつけられたとへそを曲げた住友は文句を吐くことをやめない。
ため息をと一緒に首を振った佐野は、呆れて口を閉ざした。
静まり返った車内で居心地の悪さを感じたのか、住友は助手席の無表情な顔をちらちらと見る。
車は百キロ前後のスピードで走っており、外の景色が目まぐるしく過ぎ去っていた。
「前を見て運転しろ。事故りたいのか」
「そんな怒んなくたっていーじゃん」
口を膨らませて拗ねる。
住友は他人に振り回されることが嫌で仕方がないのだ。まだ子供であり、大人が譲ってくれるだろうと高を括っている。自己中心的に生きてきたのだから、それは当たり前だった。
「教官」
応えてほしいから呼ぶ。
「ねぇ、教官!」
自分に注意を向けてほしいから、呼ぶ。ただ欲したものが欲しくて、呼ぶ。
「教官ってば!」
「降りろ! 高速を今すぐ降りろ」
無視を決め込んでいた佐野はカッとなって声を張り上げた。視界の中に高速道路の出口を見つけ、指を差す。
大きな声に急き立てられるようにハンドルを切り、出口に向かう。思いの外、佐野が怒りをあらわにしていることに住友は怯えていた。
また何か気に障ることを言ったのだろうか、何か機嫌を損ねるようなことをしたのだろうか。
住友は、止めろと言われた料金所の広いスペースの端に教習車を停止させた。
助手席に座る佐野が体を横にして、住友を正面に捉えた。
首を縮めて上目遣いをする幼い顔に近づき、いつもきまって細い目は珍しく大きく開かれた。
「あーでもない、こーでもないって、お前はべらべら喋りすぎだ。帰りは黙ってろ! 一言も話すな!」
低く威圧的な声だった。
震える唇で「はい」と言うと、佐野がうっとおしそうに住友を睨んだ。