Sour1

□あなたに愛を、僕に鎖を2
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 住友は女が好きだった。今まで男に性的興奮を感じたことはなかった。
 佐野も女が好きだった。決して男相手に欲望を爆発させたことはなかった。
 ただ住友は自分がマゾであることを知っていたし、サディスティックな女でないと欲求を満たすことができないと諦めていた。
 佐野も自分がサドであることを受け入れていたし、マゾヒストの女でないと自分の相手になれないことを理解していた。

 だが、あの日から互いに興味を持ったのは確かだった。
 教習の間、住友は佐野に個人的な質問を投げ掛け続け、佐野は快くその問いに答えた。住友はまだ十八であり若く、知る世界も小さく、知識も乏しい。己を知ってほしいと感じる欲求と本当の自分の姿など知られたくないという拒否感のジレンマに未熟な住友の心は天秤のように揺れ動く。

「教官、チョコをもらう予定は?」
 バレンタインデーが近づく度に同じような会話をしなければならないことに佐野はいささか飽き飽きしていたが、対話の相手は住友で、その彼が自分に興味を持っているということもわかり始めていたせいか決まりきったいつもの台詞を飲み込み、好意的な視線を向けた。

「どうかな、優しい生徒さんがくれるかもしれないな。期待できないけどね」

「生徒じゃなくて」
 運転席に座る住友の艶の光る頬を横目で見る。

「生徒じゃなくて。決まった人とか」
 住友は無表情のまま前方から視線を動かさない。未熟な心の揺らぎをさらけ出すように、住友ののどがゴクリという音を鳴らした。

「住友くんは? 彼女いるの?」

「彼女?」
 質問を返されて瞬間的に止まった思考を無理矢理起こすように目を見開いた住友は、自分のことはどうでもいいという風に大袈裟に首を振った。

「いないの? うそだろ?」
 小馬鹿にするように鼻で笑う佐野を住友は目を釣り上げて睨む。

「いや、いそうに見えるから」

「いないとは言ってない。けど、俺のことはいいの。教官は?」
 住友は肝心な自分のことになると怒ったように膨れっ面をして曖昧に口を濁す。
 若さゆえの感情の起伏なのだろう。佐野は小さくため息を吐いてから尖った唇を覗いた。

「いなくもない」
 自分だけ教えるのも癪に障る気がした佐野は曖昧を曖昧で返すことにして、「なにそれ」と言って眉を上げた住友に肩をすくめて見せた。
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