Sour1
□深愛(しんあい)X
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彼は時間の経過など気にすることもなくゆっくりと話し、そして言葉と裏腹に穏やかに彼女に笑いかけた。
「安心してイヴ。僕は誰も殺さないよ」
「でも、復讐するって―」
「ああ、復讐するさ。仇は打つよ」
復讐心は彼の中に存在しているのか。
敵(かたき)に対する憎しみは存在するのか。
誰も殺さずにどうやって復讐するというのか。仇を打つというのか。
困惑したようにイヴは左右に首を振った。
時間はない。彼を早くここバヤから逃がさなければならない。
でも、彼の真意は知りたい。
だが、彼女はそれを知ることが怖かった。何か嫌な予感がするのだ。
「よくわからないわ」
そう言いながら彼女はマリン・チェダから恐る恐る体を離した。彼の立つ場所から顔を逸らせ、二人を監視しているだろう保安官を探して、視線を走らせる。
十メートルほど離れた建物の前に保安官はいた。馴染みのあるハット帽を被り、壁を背にこちらを眺めていた。表情はわからない。
ただイヴの方を向いていた。
「僕の父と母を殺したのは、戦争だ。僕は決して許さない。心に誓ったんだ。争いをもう起こさないと」
マリン・チェダは焦点の合わないイヴに、急ぐことなく優しく語りかけた。
仇は戦争そのもの。争いそのもの。
彼の復讐とは何なのか。
嫌な予感がイヴの頭を覆い、彼女の体が彼の言葉を拒むように震え始めた。
「僕には疑われるだけの理由がある。だが信じてくれ、イヴ。僕は故郷と同じようにこの町を愛している」
保安官は、なぜこちらを向いているのか。
マリン・チェダは、なぜこんな話をしているのか。
穏やかな顔をして、イヴを見つめる彼は何を言い出すのか。