Sour1
□深愛(しんあい)V
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保安官事務所の中にある殺風景な一部屋に小さなテーブルがあり、その上に長い腕を組んで置き、今にも壊れそうなパイプ椅子に腰を下ろした彼は、テーブルのただ一点の染みを見つめていた。
保安官は焦点の合わないマリン・チェダの正面に座り、コーヒーを啜っていた。
彼は、黙秘権を行使して保安官を悩ませることはなかった。
口をつぐむことなく、自分に不利となることも進んで話をした。
すべて正直に話し、真実だけを口にしているように保安官には感じた。
もともとこのマリン・チェダは、嘘をつくことを知らない男なのだ。そんなことはバヤの人なら誰でも知っていることだった。
だが、容疑者であることは変わらず、彼の状況のすべては容疑を固くするものだけだった。
彼は、言う。
「バヤの人に危害を加えることなど決してしません」
そして潔く認め、
「スズランの管理は僕一人でしていました」
少し微笑んで、
「バヤの町を故郷と同じように愛しています」
そして、固い決意を口にする。
「両親を殺された恨みを忘れはしません」
どんなに質問を変えて尋ねても、変わらぬマリン・チェダの答えに保安官は大きくため息をつくしかなかった。
聴取を繰り返した数日の後、三人目の犠牲者の名を聞いて、マリン・チェダは顔を覆って泣き崩れた。
「なぜ、病院に行ってくれなかったんだ! なぜまだ幼いエミリアが死ななくてはならないんだ!」
会いもできないデレクに恨み言を言っても、神に追い縋っても、彼の問いに答えを見出してくれる者はいなかった。
彼は必死に保安官に食い下がった。
涙を拭くこともせず、自分の容疑を晴らすこともせず、ただバヤの人を案じ、その危機を知ってほしくて、保安官の胸元を掴み、声を枯らすほど何度も言った。
「これはウィルスによる病気かもしれません!一刻を争うのです! お願いです、病院に行くように町の人に言ってください!」
町の小さな病院ではなく、国立の大きな病院に行き、きちんと調べるべきだと。
彼がエミリアに処方したエキナセアのハーブ薬は、ウイルスや細菌に対する体の免疫力を高める効果があった。
マリン・チェダは、この死を招く病がウイルス性の病気の可能性があると早い時期に気付いていたのだ。
だが、彼のこの訴えが町の人を救うことはなかった。