Sour2
□Burning Blood11
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「言葉が過ぎました。申し訳ありません」
森に小突かれて、奈良も頭を下げる。
なんとなく状況を把握したのか森が口を開いた。
「息子さんは車と接触したことが原因で亡くなりました。検死官の話ですと即死ではなかったということですので、事故に合った時、すぐ病院に運ばれていたのなら結果は違ったかもしれません」
父親は両手を握りしめていた。
必死に怒りを鎮めようと、にじみ出る涙を堪えようと、テーブルに置かれた湯呑一点を見つめているようだった。
森は穏やかに続ける。
「息子さんの死を悲しんでいる者はたくさんいます。親御さんだけではありません。彼らも責任を感じ、苦しんでいる。私も息子さんと話したことがありますし、実はこの奈良も、彼と先輩後輩の仲でした」
視線を上げた父親に向かって、隣の未熟な後輩警官を指差した森は優しく微笑んだ。
「歯痒い思いをしているのは皆同じです。もちろん、お父さんのお気持ちの方がお辛いのは重々理解しておりますが、どうかここは少し大目に見てやっていただけませんでしょうか」
大きなため息をついてからヨシキの父親はぼそと言った。
「犯人は?」
「逮捕します」
即答したのは奈良。
正面から父親を見て、伝える。
必ず、捕まえる。罪を償わせる。
警察を信じて待っていてほしいと、奈良はその目に力を込めた。
「毎日あなたの家に押しかける彼は、轢き逃げ犯をぶっ殺すと、そう俺に言いました。殺したいほど、憎いんです」
ヤナセの言葉をそのまま告げると、父親はうなだれたように下を向いた。
「私も、です」
「必ず逮捕します。もう少しだけお時間をください」
再び頭を下げた奈良へと頷いてみせた父親の目には、溢れんばかりの涙があった。奈良にはこの父親が抱える苦しみや悲しみが痛いほどわかった。
署の入口まで見送りについて行った森と奈良に、「失礼します」と腰を折った後、ヨシキの父親は吹っ切れたような笑みを向けた。
「あのバイクは捨てる予定でした。でも、彼らに譲った方が息子も喜ぶかもしれない」
礼を口にする奈良の横で森は呆れたような視線を後輩の背中へと送る。
この後こっぴどく叱られるのも忘れて、奈良は小さくガッツポーズを作った。