Sour2
□Burning Blood10
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喧嘩をする時、「何か考えているのか」と聞かれれば、何も考えていないと答えるだろう。
それと同じだった。
ヤナセの背中に言いかけた奈良の言葉は、何も考えずに出てきたものだった。
そのせいか、止まった口は次の台詞を忘れたように何も発しない。焦りのあまり口走ったその後のことを奈良は少しも考えていなかったのだ。
「何だよ、言えよ」
ベンチに座る奈良を見下ろしたヤナセの眉が中央に寄る。睨むような視線を投げてからヤナセは、フンと鼻で笑う。
それは明らかに挑発しているような、奈良を馬鹿にした行為だった。
売られた喧嘩は買う。
奈良は応えるように勢いよく口を開いた。
「オマエが俺をどう思っていようと――」
「オレはてめーが嫌いだ」
それは、つぶやくような小さな声だった。
奈良の言葉をさえぎる力もないささやきのようなヤナセの声だった。それでも、奈良はその声の持つ力に呆気なく負けて、口をつぐむ。
「聞こえたかよ? 聞こえねーなら何度も言ってやるぜ。オレはてめーが嫌いだ」
公園に響くような大きな声でヤナセは言った。
その顔は奈良からは見えない。そっぽを向いたヤナセは何かをじっと見ているようだった。
「仲間裏切ってサツなんてなりやがって。オレらの邪魔ばっかしやがるし、仕事はしねーし、馬鹿だし、ヨシキの親父に頭下げるし」
そこまで言った後、ヤナセは振り返って奈良を正面から見る。
奈良の目の前にいる男は、笑っていた。
いやらしくニヤついたその表情は、奈良の何かに火をつける。奥歯がギリと音を立てた。
「昔からオレは、てめーが嫌いだ」
次の瞬間、ヤナセの体は宙を浮いていた。