Cocktail

□ NO LIMIT.(5)
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「それで?」

 腰に手を当てて、彼は困ったような顔をして僕を見ていた。
 日焼けした上半身は裸のまま、ぶかぶかのスウェットを履いて、足にはフットボール用のスパイクシューズ。

「それで、財産のほとんどを、ソフィーの希望通りに彼女が所有することになったよ。今はお城みたいな家に住んでる」

「そりゃすごいね」

 髭もじゃの顔がくしゃと笑う。
 伸びっぱなしの髪と一緒くたになっていて、どこから髪の毛でどこから髭なのか僕にはわからない。

「君の荷物は?」
 眩しそうに目を細めて僕に聞く。
 舗装なんてされていないコブだらけの道の路肩に止めた愛車のトレックを指差して、「あれだけさ」と言うと、彼は声を上げて笑い出す。

「着替えもないのかい? 大手のスポンサーから引っ張りだこだった君が、着替える服もないなんて。少し前までプライベートジェットで世界中を飛び回っていたのに」

「着替えくらいあるよ」
 頬を膨らませて言い返し、僕は片方の眉を上げる。

「いや、君を怒らせたいわけじゃないんだ。どうだった? エコノミーの乗り心地は?」

「ケニアまでは、知り合いに送ってもらったんだ」
 首を振って答えると、笑いを噛みしめていた彼は首だけを傾げた。

「ケニアからはバイクだよ」

「自転車で? ここまで?」
 素っ頓狂な声を出して、彼が目を丸める。

「そうさ。だから時間がかかったんだよ。君を探すのも大変だったけど。まさか、こんなところにいたなんて思いもしなかった」

 日差しが強いせいで太陽が大きく感じる。

 アフリカ大陸を自転車で横断。
 そんな突拍子もないことをやろうとする人が、この広い世界にはいくらかいる。
 僕も、その一人になった。

 僕のアフリカ横断の旅は、決して快適とは言えなかったけれど、新しい世界を知ることができてとても楽しかった。
 大地を彩る真っ赤な夕日、動物たちの過酷な生存競争、終わりのない地平線、ヌ―の大群、広くて高い空、自然と共に生きる人々。
 もちろん、日に日に彼のいる場所へと近づいていると感じることで、苦を苦とも思わなかったのかもしれない。

 でも、誰とも駆け引きする必要もなく、タイムを気にすることもないサイクリングの旅は、美しい大地の息吹を感じながら、温かい人とのふれあいに喜びを得られた六週間だった。

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