Cocktail
□ 警部:手塚3
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警察に敵対心を抱いている彼女は、我々に必要なことを話さず、協力を拒否し続けていた。口を閉ざし、帰れ、出ていけとヒステリックに喚き、怒りに任せて怒鳴り散らす。
非協力なのは以前も今も変わらない。彼女は事件のことについて何も話さず、被害者である両親のことも、もちろん奴のことも話さない。
だが、上客である私に対して営業スマイルとまではいかないが、邪険にするような態度をしなくなったのは事実である。
しかし、それはあくまでも態度だけで、瞳の奥に見え隠れしている私への嫌悪感、警察への拒否感がなくなったわけではない。
彼女自身も自分の中心にとぐろを巻く黒い感情を騙すことはできないのだろう。
私を見るその瞳は、より一層美しさを増していく。
雪絵はただ真っ直ぐ前だけを見て歩き、ロビーへと進んでいく。
その小さな背中が私の目の前にあった。
背後から腕を伸ばし、その細い体に巻きつけて引き寄せ、鼻を押し付けて彼女の頭皮の匂いを嗅ぎ、強張った頬に舌を這わせ、嫌がる彼女の顔を力任せに動かし、視界いっぱいに憎き私の姿を目にした時の雪絵の瞳には、何が映るのか。
"あなた"と呼んだその唇を私の唇でふさぎ、息もできないほど激しく濃厚なキスをして、彼女の舌にしゃぶりついて絡む甘い液を吸い尽くしたら、一体何と言うのか。
口の端にこぼれそうになった唾液を慌てて拭う。
想像の中の雪絵は怒りに震えながらか弱い抵抗をし、私に反抗的な視線を投げた。
実際は、足をただ前に動かすという動作に集中することで私の存在を消そうとしている彼女が背を向けているだけだ。
私はここにいる。
私の存在を消すことなどできはしない。