Cocktail

□刑事:塙(はなわ)
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「塙(はなわ)、殺しだ。お前も来い」
 手塚の怒鳴り声に引き出しを漁っていた俺は机から顔を上げた。

「俺、謹慎中ですから」
 ヘマをやらかして大目玉を食ったばかりの俺は、野暮用で署を訪れただけだった。
 部下の大木に顔を向けた手塚の乱暴な声が響く。

「大木! 塙を連れて来い」
 部屋を出ていった手塚の後ろ姿を一瞥した大木のその眉が、ぐいと嫌味に上がり、ギョロ目が俺を見下ろす。舌打ちした音を聞きつけ俺の頭は乱暴に叩かれた。

「いってぇな、何すんだよ」

「警部の命令が聞こえただろ。塙、行くぞ」
 不満を顔中に貼りつけ、俺は立ち上がる。大木の顔を覗いて言った。

「手塚警部の犬だな、大木」

「大木さん、だろうが! てめぇ塙、調子に乗るのもいい加減にしろよ」
 大木の青筋立てて怒る姿は見ていて面白い。手塚の犬。ケツでも舐めてろ。
 俺は緩んだネクタイを締め直し、ジャケットを持った。
 勝手に謹慎にされたり、無理矢理捜査に連れて行かれたり、自分の意思を持つことを許されない奴隷のようにこき使われるのか。
 下っ端なんてそんなもんだ。

「手帳持ってないっての」
 俺は大木に聞かれないようにもう一度舌打ちをした。


 アイツが死んだのは何年も前の話だ。
 俺の相棒だったと言っていいかはわからない。アイツは相棒だと言っていたが、俺も手塚警部もそういうつもりじゃなかった。
 ただアイツは人懐こくて、色々な種類の人間と交流があった。
 刑事のくせに優しすぎて、面倒な事件や小さい揉め事に首を突っ込んで余計なことばかりしていた。

 俺は昔からいい加減で、警察手帳をぶら下げて繁華街に行き好きに遊んでいたりしていた。そのせいで上司の手塚には頭を叩かれてばかりだ。
 市民を守りたいとか国をどうこうしたいとか、そんな理想はもうとっくに捨てていた。
 やつらは別に俺たちが必要なんじゃない。
 やつらはただ自分が危機を感じた時に俺たちを頼るだけだ。
 それだけ。
 税金泥棒と蔑み、役立たずと罵り、横暴だとか偉そうだとか一々文句を言い、その存在すら許さない。
 知らねぇよ、お前らなんて。

 俺は刑事という仕事への夢や希望を完全に失っていた。
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