Cocktail

□主任:大木
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「大木、何をやってんだ。こんな所で」
 手塚の声を聞いて、小箱のような部屋の中で俺は笑った。

「ガセに踊らされたんだろ。この店はシロだ」
 何十人、何百人の男女がこの箱の中で一時の快楽を得たのか。
 いや、男だけが蓄積された欲望を吐き散らしただけだろう。
 想像すると奇妙だ。
 今日は俺だけ、俺の欲望だけ吐き出すのか。
 
 奥に設置されているバスルームに体を滑り込ませ、大きな声で手塚を呼んだ。

「警部、ちょっと来て下さい」 

 俺は背中越しに男の冷たい表情を感じた。

「何だ?」
 手塚はうっとおしそうに体を出した。
 振り返り様、手塚の白い手袋をした手首に手錠を掛け、バスルームに押し倒す。
 手錠はまだ左手首にしかはめられていない。

 両腕でうまく体を受け止められなかったのか「いてぇ」と呟き、俺を見上げた。

「一体何なんだ」
 そう言ってから手首にある手錠に気付き「何なんだこれは」と静かに口を動かした。

「手錠です、警部」
 ほころぶ口元を抑えられず、笑う目元を必死に下げて、答える。ごく自然に。
 手塚は何にも言わずに体を起こし、その場に座りこんだ。
 狭いバスルームに男が二人。
 俺は立ち、手塚は座っている。

「警部」
 俺の呼びかけに全く答えようとせず、手塚は溜め息をついて大きく首を振ると手袋をゆっくり外してから口を開いた。

「何がしたいんだ?しゃぶれってか」
 可笑しそうに眉を上げると我慢できなかったのか声を出して笑い始めた。
 俺はこぶしを握り締め、目の前の男を激しい憎しみを込めて睨んだ。

「そうですよ、警部」
 笑っていた手塚の髪を鷲掴みにする。
 まばゆい笑顔が驚きに固まった。

「俺、勃ってるんでしゃぶって下さい」
 手塚は引っ張られる頭皮の痛みに声を漏らした。

「離せ」

「警部、早く」

「ふざけるな」

「警部」

「手を離せ!」

 手塚の両手が髪を掴む俺の手を強い力で剥がし始めた。

「やめろ。手を離せ、大木」
 俺は見た。
 両手がそこに。
 手塚の細く白い手が二つ、目の前に。
 手塚の起用に動く綺麗な手が二つ、目の前に。


 カチャンと音がして、手錠が両手に収まった。
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