Cocktail
□警部:手塚
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「ご指名はございますか?」
透きとおった声が携帯から響いた。右手にある携帯を左手に持ち替えて、小さく咳払いをした。
「桔梗さんをお願いします」
周囲の人間の動きを視界に入れて、誰も自分の声を聞いていないことを確認した。
復唱する声が遠くに聞こえた。
携帯から聞こえるハキハキした声が、彼女の声に聞こえて体が少し火照った。
自分の机に肘をつき、顔をなでる。腕時計の針は五時を指している。
時間までまだ余裕があるが、少し早目にホテルに向かいたい。
机の上に重なる書類が片付けられるかどうかは自分の集中力次第なのはわかっている。
だが今は、彼女の顔が脳裏から離れない。私に会った時に必ずするあの表情が理性を飛ばすスイッチになっているようだ。
一つ一つの書類に目を通しながら、ペンを持つ細い指が動いていく。
指先で握るペンの感触がなくなったと思うと、それは彼女の乳首になり、指先に力を入れたり、優しく触れたりした時の彼女の息遣いを思い出して、しばらく指先だけに集中する。
口が開く。
口が渇く。