My Turn
□運命の人
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「また同じ場所?」
灯油ストーブの前に二人並んで座ると幾分落ち着いた。現実の世界では俺とジュンは同じ場所にいて、隣に並ぶこともできる。温かい空気が流れてきて、冷えた心と体を温風と安心感が包む。
口先だけでなら、違う世界について話してもいいと思えるほど、ジュンの家は居心地がいい。そうやって誤魔化して自分を騙しているんだとわかっていながらいつも決まったようにこの部屋にいるのは、自分への甘さから。
「少し違うかな。でも暗くてうるさい場所」
「なんだそりゃ」
感覚が戻っているはずの指先をストーブに当ててジュンは記憶を辿るように首をかしげた。
「音楽がガンガン。ライヴ会場みたいな。ステージがあるし、誰かいた」
「知ってるバンド? 有名なアーティストとか?」
短い制服のスカートを広げ、ひざを折って正座する。この真冬に生足は辛いだろうが、女子高生はそんなのお構いなし、見ているだけでこっちが風邪を引きそうだ。
眉間にしわを寄せる俺の前でプリーツの端を手にストーブの温風を独り占めしながら、ジュンは一人大きく頷いた。
「ううん、知らない。でも、いつも同じ人。指が綺麗な」
頷いたのに、答えが合致しない。「指? 同じ人?」と隣の横顔に尋ねると、笑った顔がもう一度頷いた。
こいつの考えていることが手に取るようにわかるというのは、あまりいい事とは言えないのかもしれない。ジュンのことなら言葉にして口に出さなくたって、その目を見れば、大抵のことはわかる。
だから、その笑顔が見たことがないほど優しくて、その目がキラキラと綺麗に輝いているのを見て、俺は自分の未来を知った。
別に特別な力がなくたって、先のことがわかることはある。
「ねえ、運命って信じる?」
今日初めて視線を合わせたわけでもないのに、その瞳に初めて会った時のような懐かしさを感じた。小さな顔についた二つの目。ブランコと鉄棒しかない公園で母親とはぐれた女の子。今にも泣き出しそうな顔を向けて唇を噛んでいたジュン。
あの日、出会うと定められた運命だったのなら、この先もこいつを俺の隣からを奪わないでくれと誰かに願う。思わず、誰かって誰だと顔をしかめた。
「信じない?」
「信じるも何も、お前やおふくろさんは未来に起こることを見るだろ。それって、起こると決まってる場面じゃねぇの」
「たぶん」
「ってことは、未来は決まってるってことだ。まあ、誰かに決められた人生を歩いてるとは思いたくねぇけど」
ため息まじりに言って俺はストーブに表示されている温度の数字を眺めた。元気よく吹出す温風が熱く感じて設定温度を下げようと指を出すと、ジュンがその人差し指を握った。
怪訝な目を向けると、真顔のまま唇を動かす。
「決まってるのなら、わかるのかな? その人の手を握った瞬間に電気が走るとか、雷が落ちたような衝撃があったとか言うじゃない」
「その人?」
「うん、運命の人」