My Turn
□運命の人
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そばにいてやらなくちゃいけないと思ったのは、ジュンが一人きりになったからじゃない。
俺はもっと前から、おふくろさんと過ごしていた頃から、こいつが何か大きな不安を抱えているんじゃないかと気づいていたし、誰よりも孤独を恐れてたのを知っていた。
「大丈夫だって。俺はお前のそばから離れないし、待つって言っただろ」
布団の上であぐらをかいて、拳を握りしめる。
俺を睨みつけていた目は少しだけ泳いでから閉じられた。
「待ってても、帰ってこないかもしれない」
「帰ってこいよ! 俺にはお前しかいない!」
驚きなのか、そうじゃないのか、大きくなった黒い瞳が真っ直ぐにこっちを見た。
俺の一途な想いを聞いても、ジュンはちっとも嬉しそうな顔をしない。
きっとこの想いの存在自体嬉しいことじゃなくて、存在してしまったことで足枷となって、自由が失われる可能性でも考えてるんだろう。
こいつの足を引っ張るつもりはない。でも、背中を押すことができない俺は、ただの枷になるのかもしれない。孤独を怖がっているのは、ジュンじゃなくて俺なのかもしれない。
どうにもならない気持ちをぶちまけて気が済むのは俺だけ。答えを要求してこいつを困らせる。嫌気がさすとしたら、俺よりこいつの方が早い。
「嘘。今の訂正する」
右手を上げて戻らない時間を戻した気になる。テイクツー。やり直しのきかない時の流れを止めてみせる。
今まで、どんなわがままだって聞いてきた。
何をしようが、どんなことを言おうが、どこへ行こうが、俺は黙って見送って黙って待ってた。
今さら、それが嫌だと宣言してどうしようっていうんだ。耐えられないと駄々をこねてどうしようっていうんだ。
こいつの瞳が悲しげに見えるのは、俺の目の錯覚かもしれない。
その目が俺だけを見てくれるんじゃないかと小さな望みに縋ろうとするのは、ハチ公でしかない現実から目を背けているだけなのかもしれない。
「だから、そうゆー意味じゃなくて、」
訂正するつもりだったのに、俺の口は思うように動かない。思った言葉さえ見つからないのだから、当然のこと。ジタバタしてるだけの焦った心はドクドクと波打つ。
俺の前から消えてほしくない。どこかへ行ってほしくない。
それが叶わないなら、どこだか知らないところへ行ってしまっても、ちゃんと俺の隣に帰って来てくれるなら、それでもいい。
「俺は待つことしかできねぇから」
ぽつんとつぶやいた俺の言葉を聞いて黙ってしまったこいつは、きっとしばらくウンともスンとも言わない。
怒らせたのでも、悲しませたわけでもなくて、ただ口を閉じたジュン。
言うことなどない。答えがないのだから、動かす舌もない。