Sour1
□Burning Blood7
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「奈良」
緊張感の舞う二人の前に姿を現したのは、この喧嘩を止めることができる唯一の男。
その場の雰囲気など少しも気にせず、呑気な言葉を吐く。
「よう、元気か?」
「オトン」
思わず、体の力を抜いて奈良は馴染み深い顔を見上げた。
「一人か?」
周りを見渡すオトンの問いに奈良は頷いて答えた。
ついさっきまで喧嘩上等のオーラをまとっていた奈良のあまりの変わり様を目の当たりにしたヤナセは、温度のあがった拳を思い切り握りしめる。
今にも殴りかかりそうに足を一歩踏み出して、のどの奥から大声を張り上げた。
「てめー、喧嘩売っといて、どこ見てやがる!」
いい加減にしろ、とカズがヤナセの腕を掴んだ。
オトンは赤い顔をして一人吠えるヤナセのことなど見向きもせず、「元気そうだな」と奈良に微笑んでみせる。
変わらないな、と奈良は頬を緩めた。
昔から、キレっ早いのはヤナセ、いつも呑気でマイペースなのはオトンだった。
無駄に大きな図体は、ヤナセを止める時にだけ効力を発揮する。その他の時に有意義に使えた試しはない。喧嘩が強いと有名な三人組だったが、いつもヤナセと奈良が勝手に暴れているだけだったのだ。
「おいヤナセ、まずはこいつの話を聞けよ。ガキみてえに一々キレんじゃねえ」
必死に言い聞かせているカズは、今度は奈良へと顔を向け、呆れたように首を振る。
「あんたも。わざわざヤナセを怒らせなくてもいいだろ。お前ら普通に話せねえの?」
カズの言うことは正論だ。
だが、ヤナセと奈良の間に正論は関係ない。
普通になんて話せるわけがない。彼らは昔の親友で、今は敵同士なのだ。
「何かあったのか?」
物静かなオトンの低い声が夜の公園に響く。
「ヒロに用がある」
「ヒロ? まだ来てないのか?」
辺りに視線を投げて、オトンが言った。