Sour1
□Burning Blood6
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「彼女が単車乗んなって言ったら乗んねえし、ラーメン食うなって言うなら我慢する」
この年上のバイク仲間が何を言いたいのか、ヤナセにはよくわからなかった。カズには同棲している彼女がいるが、今この場でのろけ話をして何の意味があるのか。
冷やかそうと一度口を開きかけたヤナセは、カズの真剣な眼差しを前に静かに唇を閉じた。
ベンチの背もたれに体重を預け、カズは大きく息をつくと、ゆっくりと足を組む。
「俺はさ、ヤナセたちと交通課の奈良って奴との間に何があったかなんて知らねえし、聞く気もねえの。男ってのはさ、張らなきゃいけねえ意地も、めんどくせえプライドもあんじゃん。だから、どうしようもないことがあるのはわかってんよ」
ヨシキでなく、突風がブランコを揺らす。
キイキイと鳴る金属音が暗い公園の真上に広がる夜空へと溶ける。
カズは奈良を知らない。奈良が単車を降りて、ヤナセがオトンやヨシキたちと新しくチームを作った時に仲間になったのだ。
だが、ヤナセたちの昔の仲間だということ、仲間を裏切って警官になったことだけは知っている。
「でもさ、ヤナセ。てめえの大事なもんを守るために、意地やプライドを捨てなきゃいけねえこともあるんだよ」
短くまとめたカズの言葉の奥には、様々な思いがこもっている。
仲間としてオトンやヒロのそばにいて感じること、人生をほんの少し長く生きてきた先輩として見て聞いて経験してきたこと、それをヤナセは知る必要があるとカズは思っていた。
ヤナセの生き方は男らしいが、女々しい。
「どーゆー意味だよ? 大事なもんを守るための意地だろ。てめーの信念を貫くためのプライドだろ」
「ああ、そうだな。お前は間違っちゃいねえよ」
「なんだよ、オイ。言ってることがメチャクチャじゃねーか!」
ヤナセが呆れ顔で吠える。
だが、カズは悪びれた様子もなく暗い夜の空を見上げた。
ヨシキ、めんどくせえ男に先輩面されて、お前も苦労したなぁ。姿の見えないヨシキに語りかけて、その己の行為に笑う。
そして、面倒な男ヤナセを笑う。
「ま、お前は馬鹿だし、ガキだからまだわかんねえかもな」
肩をすくめ、やれやれと首を振るカズ。
ガキ扱いすんじゃねー!、と言う赤い顔をしたヤナセの怒鳴り声がブランコを揺らした。