Sour1
□Burning Blood2
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奈良は死んだヨシキとヒロの二つ上の先輩にあたる。ヤナセとオトンは同じ年で三人は学生時代から一緒に走っていた。単車をいじり始めたのはバイク屋を営んでいた父親の影響でオトンが一番先だったが、すぐにヤナセと奈良はバイクの虜になった。
若い頃は大きなチームを組んで皆でむちゃな走りをしていた。その時代から交通課にいた森とは嫌というほど顔を合わせる間柄だ。
小さな事故で仲間が一人死んだ。
それをきっかけにチームはバラバラになった。奈良も走ることをやめ、単車いじりから足を洗った。
「あの馬鹿」
スピードを出し過ぎだと森に怒られて法定速度に戻した奈良は、ハンドルを操りながら脳裏に貼り付いた鋭い目を思い出して悪態をつく。
「いっぺん死ななきゃわかんねぇ」
「死んだらその時点で終わりだ。その後も何もない」
森の横顔が寂しげに歪む。
十代の若者たちが無謀な運転をして命を落とすことは少なくない。そういう経験を山ほどしている森だからこそ感じる悲しみや不甲斐なさを奈良はその表情から読み取った。
「この間、死んじまった子もまだ若かったな」
細めた目をフロントに向け、森はぼそとつぶやいた。
昔一緒に走っていた後輩のヨシキは、チームをやめると言った奈良に突っかかってきたことがあった。
チーム内の上下関係は厳しい。先輩に楯突くことはタブ―だったが、ヨシキは走ることをやめた奈良を責め立てた。
――なんでやめちゃうんスか! ヤナセさん、見捨てるんスか!
本当の理由は言ってない。
だが、仲間の死はもう二度と見たくないと弱々しく告げた奈良にヨシキはしぶしぶ頷いた。
そのヨシキが死んだ。いや、殺された。
もう二度と味わいたくなかった仲間の死を自らその身をもって知らしめたヨシキ。
奈良は煮えたぎる怒りに任せて口を開いた。
「俺が犯人を見つけ出して、ぶっ殺してやりますよ」
「捕まえてやる、の間違いだろ」
眉間にしわを寄せた森が後輩警察官の血の気の多さに息をつく。
まだ走り屋だった頃、誰よりも喧嘩が強かったのはヤナセではなく、この奈良だった。
数日後、交通捜査課の奈良のデスクのもとに事件の進展の知らせがあった。
「奈良、ネタが入った。塗料が合致した事故車が見つかったぞ」