Sour1

□Burning Blood1
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「犯人は?」
 口を開いたのは旧車ゼットに乗る図体のでかい老け顔のオトン。

「まだ捕まってねぇよ」
 ぶっきら棒に答えた奈良に、「捕まえくださいよ」とオトンと違う高い声が追いかける。
 視界の隅にいるヒロは、口を尖らせて奈良を見ていた。ひ弱で痩せっぽちのバイクオタクであるヒロは、単車にまたがると性格が変わる。いじりすぎて原型のなくなったエフゼットワン、愛称フェザーのシートを撫ぜながらもう一度言った。

「轢き逃げ犯、早く捕まえくださいよ」

 頷くこともできずに顔をしかめた奈良にヤナセの鋭利な言葉が刺す。

「てめーらがちゃんと仕事しねーから、ナメられんだよ」

 暑さに耐えきれず、ジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖を捲し上げる。その両腕に描かれた炎のタトゥーが目印のヤナセの愛車、黒塗りのブイマックスには死んだヨシキとの思い出が刻まれていた。
 乗らせてくれ、とうるさいヨシキが三百を超える重量に耐えきれず派手に転び、オイルの入らないダミーのタンクに大きなへこみを作った。ぶん殴って怒ったヤナセに涙ながらに謝る可愛がっていた後輩が脳裏によみがえった。

「オレが見つけ出して殺してやるよ」
 殴られた時に切ったのか、血のにじむヤナセの口から恐ろしいつぶやきが吐き出された。目の前にいた奈良が即座に反応した。

「俺の仕事だ。オマエは手を出すな」

 睨み返したヤナセの視線を横目に、奈良は出口へと歩き出す。
 男たちの敵意の含む白い目を見続けるのはあまりいい気持ちがしない。ただでさえ知った顔の人間が死んだというのに、事故の原因で喧嘩しても、奈良にとってもヤナセたちにとっても何の意味もない。

 ただ苛立ちをぶつけたかったのだ。
 受け入れがたい現実に、納得できない出来事に、やりきれない気持ちに。
 奈良も、ヤナセも。

「バイク遊びも程々にしろ」
 顔も見ずに捨て台詞を吐くと、「うるせーよ」という返事が背中越しに返ってきた。
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