My Turn
□右手の甲に口づけを
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胸に文字を刻む殺人鬼がこの国の民を恐怖に震えさせていた。犠牲者は増えていくばかりで、犯人は一向に不明のままだった。教会に住む者たちは、神をも恐れぬこの残虐な殺し屋の早期逮捕を国の最高捜査機関に命じた。
捜査に関わるエージェントが一人、生々しい事件現場を撮影した画像を眺めていた。パソコンに表示された現場検証の報告を隅々まですべてに目を通し、一言。
「俺はこいつを知ってる」
犠牲者となった教職者たちのスータンには、同じ色、同種のレザージャケットの繊維が付着していた。エージェントはこの殺し屋を知っていた。
金で殺しを請け負う冷淡で残虐な男、血濡れたジャケットを羽織る赤い死神。
通称、レオ。
素顔もその姿も、生まれた国も育った場所も誰も知らない、殺し屋レオ。
『レオ』は、この殺し屋の着ているジャケットのブランド名からきた呼び名である。
この男を追う術はない。
ただ、男の背後には死体が並ぶ。
そこが、夢の中であることはすぐにわかった。
目の前で微笑む彼がすぐそこにいたからだ。男は頬にじんわりとしみ渡る温もりを感じて、その手に触れた。
男の頬を撫ぜる彼は、細い指先で瞳から流れる涙を拭う。
なぜ泣いているのですか、そう問う彼に男は答えた。
「あなたが恋しい」
潤んだ視線を向け、握った手に力を込める。
消えてしまわないように、夢から覚めてしまわないように、いつまでも彼と共にいられるように。
男は願い、祈った。
「会いたいんだ」
彼の手を握る右手の甲には、何かの紋章のようなものが彫られていた。その特徴あるタトゥーは、肌に馴染んだ古いものと、そうでないものが重なって一つのマークになっていた。
「あなたに会いたくて、苦しい。身が裂けるようだ!」
男が叫んだ先には無言で、でも優しい眼差しの彼がいた。ただそこにいて、男を見下ろしていた。