Sour1

□あなたに愛を、僕に鎖を22
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 クラブの外に広がる夜空には小さな星がいくつか瞬いていた。人差し指を天へと伸ばし、数えられるだけ数え、その少なさになんとなく肩を落とす。
 街に舞い降るほどの輝く星がなかっただけで、何が残念なのか、何がつらいのか。起伏のあったはずの感情も息を潜めており、住友の思考は出口のない迷路の中にいるようだった。

 地元の駅と比べて、街は深夜をすぎても昼のように明るく、人も多い。
 身を寄せ合ったカップルが歩を合わせ、笑い声に包まれた集団が住友の横を歩く。胸の開いた服で男を誘う女がヒールを鳴らして駅の反対方向へと去り、欲望を発散させたいと顔に書いてある男に、茶髪にスーツ姿の男たちが群がる。

 皆、それぞれに欲求がある。
 楽しみたい。喜びたい。気持ち良くなりたい。愛されたい。
 皆、それぞれの欲求を満たすために生きている。
 好きな人を作ったり、友人と遊んだり、ベッドへ誘ったり、金を払ったり金儲けしたり。

「俺、何したいんだっけ?」
 駅へと向かう住友が一人つぶやいた時、髪を金に染めた蒸し暑い顔をした男と目があった。片手に携帯電話を持った風俗店の客引きである。
 必要以上に大きな声で電話相手と話す男は視線を住友から離さず、その動向を追っているようだった。

「兄さん、どう? 可愛い子いるし、サービスするよ」
 いつの間に電話を切ったのか、住友の隣を歩き始める。

「ストレスは溜めちゃダメだよ、パーっと発散させないと」

「ストレス?」
 繰り返された言葉に大袈裟に頷き、男は卑しい目つきで住友の頭から足の先までを観察するように見た後、忙しなく口を動かした。

「そうそう。あるでしょストレス。パーっと行こうよ、パーっとさ! 兄さん好みの子を選べるよ。美人なお姉さんタイプなんかどう?」

 ストレスがないとは言えない。男の言っていることは間違ってはいない。
 だが今、可愛い女、美人な女などに興味はない。今、興味があること、住友が欲していることは何か。

 住友は今、すぐにでもこの深い樹海のような思考から逃れたいのだ。
 この頭の中にある出口の見えない混沌とした森から逃げ出したいのだ。


「ねぇ、何もかも忘れられるくらい気持ち良くなれる?」
 暑苦しい顔の男が住友の言葉にいやらしい笑みを見せ、親指を立てた。

to be continued.→あなたに愛を、僕に鎖を23
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