Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を22
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「厄介だね」
佐野の言葉に女は大きく頷いた。
厄介だ。非常に面倒である。
感情のない関係に物足りなさを感じたことは、今まで一度もない。珠理との関係も満ち足りていると断言できる。
行為自体に意味があるのだ。与え与えられる行為に喜びを見い出しているのだから、余計な感情は必要ない。
だが、それは佐野が思うだけで、珠理がどう感じているのかはわからない。もしかしたら、彼女も住友に似た感情を持っているかもしれない。
彼女の欲求を超えたあの激しい佐野の拷問に耐えられるのだから、他の感情があっても不思議はない。
「部屋を予約してもいいですか?」
大きな目をより大きくして女は佐野を上目遣いに見た。
この見知らぬ女の尻を赤く染める情景は興奮を呼ぶ。泣きわめき、喘ぎながら苦しむ女を眺めるのは快感だろう。
しかし今この時、目の前に座る初対面であるマゾヒストの女との想像に描いた行為に対して、佐野は初めて芽生えた感情に自分自身戸惑った。
感情がないからこそ得られる快感に、とって変わるものなどない。愛情に満たされた心では求めている快感は得られないのだ。
本当にそうか?
本当に得られないのだろうか。
「俺の責めはキツイよ」
次に、品定めするような視線を向けたのは佐野の方だった。
「どのくらいキツイの?」
瞳の中の光が一瞬迷いに揺れた。
激しいプレイを欲していないマゾヒストもいる。スパンキングはできないと拒むマゾヒストもいる。ソフトSMを好む人もいる。
『でも、優しいじゃん』
頭の中の住友がうるさく叫び声を上げる。
キツさの度合いよりも、佐野自身を求める言葉。
『教官、好きだよ』
鮮やかに甦る住友の真剣な目。
感じない鞭に耐え、佐野に応えようと必死な住友。
「君には耐えられないかもね」
泡の残るグラスを持って立ち、佐野は歪んだ笑みを作った。目を細め眉間にしわを寄せた女が唖然と佐野を見上げた。
その自分の行動に一番驚いたのは、他でもない佐野自身だった。